HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 01 Aug 2010 22:14:16 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:「うちの子は勉強しなくて困っちゃう」「元気だったら、それだ…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2010年8月1日

 「うちの子は勉強しなくて困っちゃう」「元気だったら、それだけでいいじゃない」「のんきでいいわね」。パートの主婦同士のありふれた会話だった▼のんき、と言われたのは一九九五年、東京都八王子市のスーパーで射殺された女子高生矢吹恵さんの母親だ。事情を知らない人の悪気のない言葉を受け流し、心の中で叫んだ。「私の娘は、何も悪いことをしていないのに銃で殺されたのよ」▼十七歳。青春の真っただ中だった恵さんと、バイト仲間の前田寛美さん、パート従業員の稲垣則子さんの三人が殺害されてから十五年の歳月が流れた▼粘着テープで口をふさがれた恵さんと寛美さんは手をつなぐように縛られ、近くから頭を撃ち抜かれた。わずか二分間。日本の犯罪史上では例のない残酷さだ▼一般市民に容赦なく銃口が向けられ「銃犯罪のターニングポイント」と警察当局が位置付けるこの事件は、犯人像さえ絞り込めていない。殺人罪の公訴時効は廃止されたが、事件関係者の記憶は薄れ、捜査の困難は増すばかりだ▼事件現場のスーパーは取り壊されて、駐車場になった。事件を想起させるものは、何も残っていない。駐車場の片隅に花束とジュース、お酒のお供え物が置かれていた。「元気でいてさえくれれば、それだけで良かった」。母の叫びを忘れないという誓いこそが、風化にあらがう力になる。

 

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