学校教育の目標は、全国学力テストで好成績を収めることだ。そんな錯覚にとらわれる。テストの狙いが判然としないからだ。国と地方の教育政策にどう生かすのか。存廃を含めて問い直すべきだ。
昨年十一月、全国の小学二年生から五年生までを対象にしたある統一テストが行われた。参加無料だったことも手伝い、四十七都道府県の約十万人が志願した。
テストの狙いは明白だ。将来の難関大学の突破を目指す高学力の子どもの発掘にある。キャッチコピーは「さあ、競争だ」。もちろん、主催は大手進学塾である。
都道府県別の得点率(小五)は東京を筆頭に、神奈川、千葉、埼玉と受験熱の高い首都圏が突出していた。文部科学省の学力テストの平均正答率(小六)で上位を占める秋田県や福井県は、統一テストでは下位に転落している。
偏差値至上主義とか学歴偏重主義といった受験産業への批判はある。しかし、テストの目的がはっきりしていれば、先生が教えるべきこと、子どもが学ぶべきことが自然と決まってくるわけだ。
文科省の学力テストの目的は、子どもの学習の成果を測り、学校の授業改善に役立てるとされている。そのために、調査方法は、全国の小中学校の約三割を選んでの抽出方式で十分とされた。
ところが、抽出から漏れた学校は不参加を恐れ、独自の採点や費用負担を厭(いと)わず、ほぼ四校に三校が参加する結果となった。教育現場にもたらされているのは、地方や学校のメンツ、競争と序列アップへの焦りではないか。
秋田県や福井県などには、成績の振るわない学校からの視察が絶えない。鳥取県のように市町村別や学校別の成績を開示し、事前対策を講じるところも出ている。
地方や学校の横並び意識が助長され、地方ならではの教育目標は色あせてきている。画一的な学習指導や授業内容が広がっていく現状は、大きなマイナスだ。
文科省は六月、多くの問題が指摘される学力テストの在り方を話し合う専門家会議をつくった。これまでのところ検討されたのは調査方式の是非や、理科と社会、英語の対象教科への追加といった技術論にすぎない。
国の新成長戦略に合わせ、日本の学力水準を国際的学習到達度調査で世界トップレベルに引き上げる目標も掲げている。専門家会議がこれから学力テストをどう見直していくのか目を凝らしたい。
この記事を印刷する