欧州が域内銀行の健全性を調べた特別検査(ストレステスト)の結果が金融市場に不透明感を残している。検査基準が甘かったためだ。円相場をはじめ、しばらく神経質な局面が続きそうだ。
今回の検査は、ギリシャの財政危機を受けて、欧州の銀行監督委員会(CEBS)が欧州の銀行九十一行を対象に実施した。
欧州連合(EU)の成長率が見通しよりも落ち込むなど景気悪化を想定して、銀行の経営がどうなるかを調べた。
金融市場ではドイツやフランスの銀行などが不安視されていたが、ふたを開けてみると、資本不足を指摘されたのはドイツの不動産金融会社やギリシャの農業銀行、スペインの貯蓄銀行など、わずか七行にとどまった。
資本不足の合計額も三十五億ユーロ(約三千九百億円)と少なく、EUが用意している最大七千五百億ユーロ(約八十四兆円)の金融支援枠からみて十分に対応可能だった。金融市場はひとまず結果を好感して、ユーロやドルの為替相場や株式市場も落ち着いている。
ただ、これでひと安心とはいかない。そもそも欧州が特別検査を実施したのは、ギリシャ危機で国債の債務不履行懸念が浮上し、国債を大量保有する域内銀行の健全性に黄色信号が灯(とも)ったためだ。
ところが、今回の検査は銀行が顧客と取引する国債だけに限定し、銀行自身が満期まで保有する国債は対象から除いた。
実際には、銀行保有分の割合がはるかに大きい。市場関係者の間には「今回の検査は当局のアリバイづくり。十分とはいえない」という批判的見方が広がっている。
市場が好感したといっても、一時的な動きにとどまり、再び欧州の財政金融問題に焦点が当たれば、新たな不安材料になる可能性は残っている。
銀行の健全性が問題になるのは、資産劣化が景気に大きな影響を及ぼすからだ。ある銀行が危ないとみられると、疑心暗鬼が広がって銀行間取引が収縮する。その結果、各行が融資に慎重になって貸し渋りが起きる。
企業は設備投資削減を余儀なくされ、やがて景気が落ち込む。これは日本がかつて経験した事態だ。悪循環を防ぐために、銀行の健全性チェックが重要になる。
欧州の銀行は日本や米国に比べても、経営の情報公開が不十分と指摘されてきた。監督当局には今回のテストで一件落着とせず、引き続き監視の強化を望む。
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