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家畜の伝染病、口蹄疫(こうていえき)が猛威をふるっていた宮崎県で、家畜の移動制限がやっと解除された。最初に報告されてから3カ月余りかかって、ようやく流行は終息にこぎつけた。[記事全文]
小学1年だった木下あいりさんが、下校途中に見知らぬ男に性的暴行を受けて殺された。広島市で2005年秋に起きたこの事件で、審理をやり直していた広島高裁はペルー国籍の被告に一審通り無期懲役を言い[記事全文]
家畜の伝染病、口蹄疫(こうていえき)が猛威をふるっていた宮崎県で、家畜の移動制限がやっと解除された。最初に報告されてから3カ月余りかかって、ようやく流行は終息にこぎつけた。
この間、感染の広がりを抑えるため殺処分された牛や豚は約29万頭にのぼる。県内で飼育されている数の約2割にあたり、畜産農家は心理的にも経済的にも、大きな犠牲を払った。
日本の食を支える畜産農家の再生を支援していくとともに、今回の教訓をしっかりと受け止めて、今後の対策に生かすようにしたい。
前回、2000年の発生時は宮崎県と北海道で牛740頭が殺処分された。今回はウイルスを広げやすい豚に感染したこともあって、比べものにならない規模になった。日本で多くの人々が初めて目の当たりにした口蹄疫ウイルスのこわさである。
これからも、いつなんどき日本のどこかに、ウイルスが入り込まないとは限らない。
発生後の対応をめぐっては、いくつもの問題が浮かび上がった。
まず、発見の遅れがある。4月20日に1例目が確認されたが、感染は3月に始まり、この時点ではすでに十数戸の農家に広がっていたことが後でわかった。気づかぬまま、感染をさらに広げていたことになる。
症状だけでは判断が難しい場合も多い。簡便になった遺伝子検査を活用して、いち早く感染を見つけられる態勢を整えることが欠かせないだろう。
また、感染がわかったら、ただちに殺処分して埋却することが重要だが、埋却場所が不足していたことなどから、処分が大きく遅れた。
家畜伝染病予防法によれば、埋却地の確保は各農家の責任になっている。この法律ができた60年前に比べると、農家の規模ははるかに大きくなり、とりわけ養豚農家の場合は土地にほとんど余裕がない。埋却が滞りなく進んだ自治体は感染を早期に抑え込んだことをみれば、自治体で準備しておくことも必要ではないか。
一方、大型の家畜を扱える獣医師の不足も浮かび上がった。今回、多くの獣医師らが全国から応援にかけつけた。ただちに現地に派遣できる専門家チームを用意しておいたり、長期的には獣医師の養成を進めたりすることも大切である。こうしたことは政府が責任をもって進めるべきだ。
法律上、家畜の伝染病対策は都道府県の責任だが、県を越えて広がる事態を想定すれば、司令塔としての政府の役割もますます重要だ。
感染症対策は何よりスピードが求められる。これは、人でも家畜の場合でも同じだ。すばやく対策がとれるよう、都道府県と国の役割分担や連携の仕方を再確認しておく必要がある。
小学1年だった木下あいりさんが、下校途中に見知らぬ男に性的暴行を受けて殺された。広島市で2005年秋に起きたこの事件で、審理をやり直していた広島高裁はペルー国籍の被告に一審通り無期懲役を言い渡した。
死刑か無期かが注目されたこの裁判は、異例の展開をたどった。最初の高裁判決は、広島地裁に審理を差し戻した。その判断を最高裁が覆し、今回が2度目の控訴審の判決である。
一審は3年後に控えた裁判員裁判のモデルケースとされ、公判前整理手続きで争点や証拠を整理したうえで、短期間で集中的に審理することを試みた。しかし、これらをあまりに絞り込みすぎたことが、裁判所の判断がその都度変わった背景にある。
公判前の整理では、被告の捜査段階の供述調書を証拠とすることに、弁護側が任意性に問題があるとして同意しなかった。地裁は検察側に立証の方針を十分確かめないまま公判に入り、検察側が証拠として出そうとしたこの調書を採用しなかった。
調書には犯行現場が被告の部屋と推定できる供述があり、部屋から押収された毛布には被害者の毛髪や血が付いていた。一審判決は犯行現場を「被告のアパート及びその周辺」とあいまいにしたまま、被害者が1人だけで計画性もないとして無期懲役とした。
最初の高裁判決は、供述を吟味すれば犯行現場を認定できたはずだと判断し、「審理が不十分」と地裁に差し戻した。「公判前整理手続きを十分しないまま終結させた」との指摘はうなずけるものだった。
これに対し最高裁は、高裁での審理のやり直しを命じた。検察側が犯行現場の特定のために調書が必要とは主張していないとして、地裁に不必要な義務を求めたとの理由からだ。
二転三転のすえ、今回も犯行現場は不確かなままだ。現場の特定は犯行の計画性や悪質性を判断するのに重要だが、実質的な審理はおわった。被害者の父親が「事実を解明する場がなくなってしまった」と憤るのは当然だ。
公判前整理手続きの目的は裁判所と検察、弁護側が争点と証拠を整理して公判を進める計画をつくることだ。ところが一審の地裁は、その先まで見越して証拠や争点を絞りすぎたのではないか。犯行時には「悪魔に支配されていた」と言う被告について、精神鑑定を認めなかったのもそのためだろう。
この1年、裁判員を経験した市民には「証拠が少なすぎて推測に走りがち」「これだけの材料で判断していいのか」といった不安や戸惑いの声が少なくない。特に死刑の適用が問われる時には判断材料が十分に必要だ。
迅速な裁判を目指すあまりに拙速に陥ってはいけない。今回の裁判をモデルとして学ぶべきはその点だろう。