厚生労働省が二十三日明らかにした新たな高齢者医療制度案は、わずか八カ月でまとめただけに肝心な点が抜け、改革案とはいえない。「初めに廃止ありき」ではなく十分に練ったうえで示すべきだ。
現行の後期高齢者医療制度は七十五歳以上を一律に加入させるが、新制度案では七十五歳以上のうち無職や自営業者は市町村国民健康保険(国保)、サラリーマンとその配偶者は組合健康保険など被用者保険に加入する。現行制度下では家族が分断されるとの批判があったためだ。
とはいえ、これにより新たな問題が生じる。例えば低年金受給の高齢者の場合、サラリーマンの子供の扶養家族になれば保険料負担を免れるが、一人暮らしで国保加入だと払わなければならない。今の制度で解消された高齢者間の格差が新制度案では復活するのだ。
現行制度では高齢者と現役世代の負担割合を明確にするため、七十五歳以上の医療費のうち窓口負担を除く約五割を税、四割を現役世代からの支援金、一割を保険料として高齢者が納める仕組みになっており、新制度でもこの負担割合はほぼ踏襲する見込みだ。
だが、現役世代の減少、高齢者の増加に伴い、現役とともに高齢者の保険料も二年ごとに上がる現行の仕組みを緩和する場合、その負担軽減分をどう賄うかが不明だ。現役世代だけに負わせては賛成は得られないだろう。
老若の人口比を考慮した保険料の決め方は介護保険にも導入されている。こちらはどうするのか。それにもこたえる必要がある。
新制度導入後、国保の財政区分を七十五歳か六十五歳のいずれかを境に別勘定にするが、七十五歳で区切る現行制度と実質的には変わらない。新制度案をまとめた厚労省の「改革会議」は長妻昭厚労相が主導しており、検討の際の六原則を示していた。その一つは「年齢による区分の解消」だが、改革案はこれに反している。
高齢者加入分の運営主体は「都道府県」かどうか。財政責任をめぐり市町村と都道府県が最も対立する点には触れていない。
総じて新制度案には現行制度を超えるものはほとんどない。現行制度は世代間の公平性、財政難の国保への財政支援などを目指し十年の議論を経てつくられたが、スタート当初は周知徹底を欠いたことなどから批判が続出した。
別の制度に変えるにしても、再び混乱を招かないように議論を十分に尽くさなければならない。
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