政府が二〇一一年度予算の概算要求基準(シーリング)原案を決めた。与野党が衆参で入れ替わるねじれ国会の現実を踏まえれば、菅直人政権は予算編成段階から野党との政策協議を急ぐべきだ。
来年度の予算編成はこれまでになく厳しい状況下にある。まず、そもそも財源に余裕がない。
政府は来年度国債発行の上限を約四十四兆円、国債費を除く一般会計歳出の上限を約七十一兆円と決めている。
すると、内閣府の試算では二兆円強の税収増を見込んだとしても、約五兆円の歳入不足になる。
民主党は新成長戦略や子ども手当の上積みなどマニフェスト政策実施のために二兆円の特別枠を設けるよう求めていたが、政府の原案はそれを「一兆円を相当程度超える額」に圧縮した。
それでも歳出上限の範囲内に抑えるためには、高齢化に伴う社会保障費の自然増加分一・三兆円と合わせて、三兆円前後を他の予算項目の削減や組み替えで捻出(ねんしゅつ)しなければならない。
原案は各省庁予算の一律10%削減を求めている。本来、組み替えによる重点化を目指すなら、一律ではなく、めりはりが利いた各省予算の増減があって当然だ。
一律削減になったのは、各省横並びという霞が関秩序を優先した結果である。政治主導の予算編成どころか、スタートから役所の都合を重んじた「財務省主導」が鮮明になってしまった。
特別枠の配分について、仙谷由人官房長官は外部の意見を参考にしたり、公開の「政策コンテスト」を実施して決める考えを表明した。予算編成の透明化を進めること自体に異論はない。
ただ、これまでは既存の予算枠に収めきれなかった分を少し体裁を変えて重点化の特別枠に押し込む例も目立った。「政策コンテスト」に名を借りて、各省の予算分捕り合戦にしてはならない。
来年度予算編成が難しいのは、財源不足に加えて国会がねじれ状況になっているためだ。政府が自民党はじめ野党の言い分に耳を傾けずに作業を進めても、来年の通常国会で予算案の裏付けになる予算関連法案を参院で可決成立できる見通しはない。
関連法案が否決されてしまえば結局、予算は執行できない。そんな現実を直視するなら、政府・与党は予算編成段階から野党と政策協議に踏み込むべきではないか。それが政治主導にもつながる。
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