落語『しわい屋』の、しわい屋とは吝嗇家(りんしょくか)、つまりケチのことである。扇子を動かしてあおげば傷むから、首の方を動かす−など、極端なケチ話のオンパレード▼中には、こんな型破りな暑さ対策の話もある。「何です、頭の上に吊(つる)してある石は?」「いや、涼んでいるんだ。今日は蒸すんでな。こうしていると冷や汗が出るんで、扇子も要らないよ」。今日は、大暑。こんな句が思い浮かぶ。<つひにわれ八方破れ大暑来ぬ>牛山一庭人▼さても、このところの暑さときたらとても扇子や冷や汗で何とかできるレベルではない。各地で最高気温三〇度以上の「真夏日」は当たり前、三五度以上の「猛暑日」も続々だ。四〇・九度の“日本記録”を持つ岐阜県・多治見では、昨日も全国一位の三九・四度に達した▼今週は猛烈な暑さが原因とみられるトラブルも相次いだ。成田空港では、滑走路のアスファルトが軟化して深くなったわだちに旅客機がはまって立ち往生。鳥取県のJR伯備線ではレールがゆがんで一時運転が見合わされた▼体へのダメージが大きいのも当然だ。熱中症患者が続出しており死者も出ている。炎天下も旅しただろう芭蕉の<命なりわづかの笠の下涼み>という句は大げさではない▼外出時にはせめて日傘や帽子で日差しを遮るようにしたい。わずかな“涼み”のあるなしが命にかかわりかねない。