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〈念力のゆるめば死ぬる大暑かな〉の一句が俳人の村上鬼城(きじょう)にある。誇張だろうが、ひょっとすると、体ひとつで暑さと闘った時代の実感だったかもしれない。鬼城は明治の初めに群馬県に移り住み生涯を過ごした。内陸だけに夏は暑い▼その群馬では、館林市でおとといの気温が38.9度に上がった。きのうは岐阜県多治見市で39.4度を記録した。今年の全国最高という。そのあたりを真っ赤に列島はうだる。そしてきょうは大暑。冷房という「逃げ場」はあるにせよ、これだけ暑いと鬼城の一句はぐっとリアルだ▼大げさではなく熱中症で命が奪われている。東京ではすでに400人以上が病院に運ばれたそうだ。暑気あたりを総称して「霍乱(かくらん)」という。鬼も霍乱にやられるのだから、子どもやお年寄りは注意がいる▼人間の体は水の器だという。それも穴のたくさん開いたバケツのようなものらしい。大小の排泄(はいせつ)や呼吸、それに汗などで、成人は1日にざっと2リットルの水を失う。ここは念力だのみではなく、定石通りのこまめな水分補給で身を守りたい▼夏をつかさどる神を「炎帝」と呼ぶ。ロシアでは暴君となって記録的な猛暑をもたらしている。涼を求めた人か、6、7月で約1900人も水死したそうだ。ひるがえって日本の炎帝である。今年の太平洋高気圧は賢帝だろうか、それとも愚帝だろうか▼酷暑でなく冷夏でもない、美しい夏を誰もが望んでいる。〈炎帝の日本列島わしづかみ〉小山千代子。賢帝なら、その指の力を、少し緩めてもらえるとありがたいのだが。