立川志の輔さんの「みどりの窓口」は、話がすぐに脇道に外れるおばちゃんや、威勢はいいがまったく話の通じない男などに困惑する駅員を演じた新作落語だ。志の輔さん独特の語り口でからっと明るい爆笑編に仕上がっているが、駅員の現実はそんなに甘くはないはずだ▼つい先日も、地下鉄の駅で泥酔して大声で駅員を怒鳴る中年のサラリーマンを目撃した。会話に耳をそばだててみると、明らかな言い掛かり。誠実に応対している駅員さんが気の毒になった▼「駅員が怖くてサラリーマンやってられるか」と威勢が良かったが、電車に乗ると男はなぜか、意気消沈していた。自己嫌悪に陥っているのかと考えるのは希望的推測にすぎるだろうか▼全国二十五の鉄道会社によると、昨年度に駅員や乗務員が乗客から受けた暴力は過去最多の八百六十九件。前年度より百十七件増えた。加害者の六割は酒を飲んでいた。「不況によるストレスも影響しているのではないか」。そんな見方も鉄道会社にはあるようだ▼関東地方はきのう、前橋の三八・五度など各地で三五度以上の猛暑日を記録した。外を歩くと強い日差しに身を焦がされるような気がするほどだ▼暑さでイライラは一層募るかもしれないが、ストレスのはけ口を駅員に向けるのは許されない。酔っていない時、口汚く罵(ののし)っている醜悪な姿を想像してみてほしい。