HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Tue, 20 Jul 2010 23:13:03 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:認定訴訟 水俣病とは何なのか:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

認定訴訟 水俣病とは何なのか

2010年7月21日

 最高裁で水俣病とされながら、行政の認定を受けられない八十四歳の女性患者に、大阪地裁が患者と認めるように命じた。病苦と闘い六十年。この人たちがそうでないなら、水俣病とは何なのか。

 原告の女性は熊本県水俣市に生まれ、不知火海の魚介類を食べて育った。二十代後半から手足がしびれるようになった。兵庫県尼崎市に移ってからも、時には勤務先で倒れたほどの頭痛やけいれんに悩まされ続けているという。

 旧環境庁による「一九七七年基準」では、手足の感覚障害のほか、複数の症状の組み合わせがなければ、水俣病とは認定しない。従って、女性は認定されていない。

 しかし、地裁判決はその基準を「医学的な根拠がない」と一蹴(いっしゅう)し「感覚障害しかないタイプの水俣病も存在する」と明示した。また、認定は「申請者に関する具体的な事情を総合的に検討したうえで判断すべきである」とした。

 緩やかな基準を支持した二〇〇四年の最高裁判決を踏襲したかたちである。風邪をひいた場合でも、熱が出るときと出ないときがある。病気を診断する際に、周囲の状況を考慮に入れた総合的な判断が必要だとは、思えばごく当たり前のことではないか。

 「患者」に対する国の対応は、「四重基準」ともいえる。この四月にも新たな救済策が定められたばかりである。国や熊本県の被害拡大責任を指摘する司法判断が出て、新たな認定申請者が増えるに連れて「患者」としては「補償」せず、「被害者」として「救済」するという弥縫策(びほうさく)を積み上げてきた。それが長年どれほど患者を苦しめてきたことか。

 なぜこのようなことが起こるかといえば、認定患者に対する補償額と被害者への救済額に差がつくからだ。七七年より前は国も感覚障害だけでも水俣病と認めていた。これでは国は患者数を少なくしたがっている、患者より原因企業チッソの救済を優先させているといわれても仕方がない。

 国、県は控訴の意向を示す。裁判が長引けば、認定されるのを待つか、目前の救済を受け入れるかで、年老いた患者の心がまた引き裂かれることになる。

 “公式確認”から五十四年、もういいではないか。国がためらう不知火海一帯の大規模な健康調査を実施して、疑わしきは救済の観点から水俣病の症状を確定し、根本的な救済基準を示し得たとき、初めて水俣病最終章の幕は開く。

 

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