HTTP/1.1 200 OK Date: Mon, 19 Jul 2010 23:14:26 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:ユニクロ合弁 経済が南北を近づける:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

ユニクロ合弁 経済が南北を近づける

2010年7月20日

 「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが、アジア最貧国といわれるバングラデシュで合弁会社を興す。相手はあのグラミン銀行。社会の仕組みが大きく変わりそうな予感をはらむ。

 グラミン銀行は大学教授だったムハマド・ユヌス氏が、一九八三年に創設した。貧困層に、事業資金を少額だが無担保で融資する機関。年利20%でも、返済率は100%に近い。金のやりとりが目的ではなく、例えばミシンや糸を買ってもらい、働く場を提供する。二〇〇六年、ユヌス氏とともに、ノーベル平和賞を受賞した。国際社会の信頼は厚い。

 そのグラミン銀行が1%、ファーストリテイリングが99%出資して、十月に資本金十万ドル(約九百万円)の合弁会社を設立する。

 合弁会社は、良質な衣類を現地で一貫生産し、販売員が農村を回って一枚一ドル程度で売り歩く。

 販売員は八百万人を超えるグラミンの債務者ネットワークから採用し、ファースト側が職業訓練に当たる。三年後には最大二千人の雇用をめざす。上げた利益は配当などに回さず、地元で再投資して、貧困解消や将来の成長につなげるように使うのがみそだ。

 ファーストも慈善事業を手掛けるわけではない。主要産業は縫製業。一億六千万人の人口を抱えるバングラデシュには、安価で良質な労働力があり、貧困を脱出できれば巨大な市場になる。ユニクロは「井戸を掘った人」になる。「双方よし」だし、それでいい。

 欧州では、経済活動を通じて社会的課題の解決を試みる「ソーシャルビジネス(社会的事業)」が時流に乗ってきた。福祉施設の経営や融資事業など英国での市場規模は約五兆七千億円ともいわれ、日本でも「新しい公共」の担い手として、NPOなどによる社会的事業が注目を浴びつつある。

 温暖化防止や生物多様性の保全などに関する国連の会議が、軒並み行き詰まっている。主因は南北経済対立だ。背景には、途上国の貧困と先進国の搾取の構図がある。さらにその背後には勝ち負けを厳しく分ける金融資本主義がある。「双方よし」の社会的事業の広がりは、国際政治がなしえないでいる南北対立解消への突破口になるのではないか。

 「相手の国にプラスにならないと、本当には根付けない」。ファーストの柳井正会長兼社長の考え方には、グローバル経済とは何かという根本的な問いが含まれているようだ。行く末を注視したい。

 

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