国土交通省の有識者会議が、全国の個別ダム事業検証の判断基準案をまとめた。ダム以外の治水に二十五の手法を示し、評価できる点はあるが、検証、検討を事業者に委ねるなど問題も少なくない。
「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」の基準案は、まず遊水地整備、河道掘削、決壊し難い堤防、雨水貯留施設、森林保全、土地利用規制などダム以外の二十五の治水手法を示す。その上で検証対象ダムを含む対策とダム以外の方法による案を作り、比較検討を求める。
評価は被害軽減の効果、コストと実現性、地域や環境への影響などの視点で行う。ダム以外の具体的な治水対策や、評価の考え方を明示したのは前進である。
有識者会議の進め方も、討議のテーマや資料作成に委員が積極的にかかわった。この種の会議にありがちな事務局(国交省)任せを避けたのは、評価できる。
国交省政務三役の最終判断に至るまでの個別ダム検証は、国と水資源機構が施工する三十一事業について国交相が地方整備局および同機構に指示、道府県施工の五十以上の補助ダム事業は同相が道府県に要請する。
事業者自身に事業の検証を求めることになり、果たして公正、客観的な検証結果が得られるか。とくに補助ダムは、初めから事業の妥当性を主張する首長が多いだけに、危惧(きぐ)の念を覚える。
検証の過程では、検討の場の公開をはじめ各種情報の公開、主要な段階でのパブリックコメント、学識経験者や関係住民らの意見を聞くよう求めている。それらの手続きを厳守し、出された意見を尊重すべきである。さもないと、事業者の計画を追認する過去の公共事業再評価の茶番の繰り返しになりかねない。
検証の期間をどうして限定しないのか。昨年秋、検証の対象となった国と機構施工のダムは事業の新しい段階に進めず、中ぶらりんの事態が続いている。たとえば国直轄の八ッ場ダム(群馬県)、設楽ダム(愛知県)は本体工事に入らず、橋の建設や移転住民の生活再建用地調査・取得などを実施しているのみである。
ダム事業中止にせよ、建設推進にせよ、中途半端な状態が長引けば、影響は水没などで移転すべき住民にしわ寄せされる。検証に手抜きや安易な結論は許されないが、関係住民をいつまでも振り回すべきではない。
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