関敬吾著『日本昔話大成』に「塩吹臼」として載る昔話がある。発祥がどこか不詳だが、設定などに異同はあっても同種の話は各地に伝わり、西洋にも似た話があるらしい。大まかに、こんな筋書きだ▼弟が、欲しい物を言って回せば何でも出てくる石臼を誰かからもらう。強欲な兄がそれを持ち出し船の上で回す。「塩出ろ」と言うとどんどん出てくるが、止め方を知らないので、やがて重みで沈む。その臼は今も海中で回り続けている。だから、海の水は塩辛いのだ−▼どこか、この話にダブる感じもする米南部沖、メキシコ湾での原油流出事故だ。海底油井の掘削だから、英石油大手BPが「原油出ろ」と願っていたのは確かだろう。実際に原油は出た。だが、爆発事故でどんどん流れ出した後、それの止め方を知らなかった▼事故以来ほぼ三カ月。何度か試された封じ込めの方策も功を奏さず、まさか<だから、海の水はどす黒いのだ>という結末はないにしても、一体、いつまで汚染が続くのかと不気味に感じていた人は多かったと思う▼それが、ようやく、流出個所に調整弁付きの円筒形のふたをかぶせることで何とか止まったのだという。ただ、噴き出る原油などによる内部の圧力は高まっており大規模な破裂の恐れもあるというから剣〓(けんのん)だ▼単なる一時しのぎ、<臭い物に蓋(ふた)>で終わることがないよう願う。