改正臓器移植法が十七日から全面施行される。世界一厳しいといわれた現行法の脳死下での臓器提供の要件が大幅に緩められる。移植を待つ患者には朗報だが、間違いがあってはならない。
昨年七月に成立した改正法を受け、配偶者、親子間での臓器の優先提供が全面施行に先立ち一月から施行された。これに基づき五月には東京都内の病院で、亡くなった夫から妻への角膜移植が初めて行われた。改正法の最大の変更は、脳死下での小児移植への道を開くなど、臓器提供が従来よりもしやすくなる点だ。
一九九七年に成立した現行法やそれに基づく厚生労働省指針では、臓器提供者は十五歳以上で、生前に書面で提供の意思表示をし、家族が承諾した場合に限るなど提供要件を厳格に定めていた。
改正法では、本人が生前に提供の意思表示をしていた場合はもとより、意思が不明の場合でも家族の承諾で提供が可能になる。しかも提供者の年齢制限がなくなるなど提供要件が大幅に緩和される。
従来は書面による意思表示がなければ無条件に提供の対象外だったが、今後は誰もが提供の対象者になる可能性がある。その際、脳死になった人があらかじめ明確に意思を表示しておかないと、決断を迫られる家族の心理的な負担は大きく、提供、拒否のいずれの判断をしても後悔しかねない。
そうならないためには、日ごろから家族の間で脳死になったときのことを十分に話し合い、提供か拒否をはっきり決めておくのが望ましい。意思表示カードの必要性は以前よりも増している。
全面施行に合わせ、運転免許証や健康保険証などに意思表示欄を設ける試みも順次始まる。これらも十分に活用したい。
移植用臓器は世界的に不足し、世界保健機関(WHO)はことし五月、国外での移植の自粛を求める指針を採択した。子供の移植手術を海外に頼ってきたわが国は、それを見越し、法改正をした。
国内で子供への移植が法的に可能になっても、提供者がいなくて実質的にできないなどという逆の結果にならないよう、一層の啓発活動が求められる。
心配されるのは、虐待による脳死の子供が提供者に紛れ込むことだ。改正法に基づく指針は、脳死判定を行い、臓器提供する医療機関に対し「虐待防止委員会」の設置を義務付けている。
子供の脳死判定・臓器提供には慎重を期してもらいたい。
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