日本振興銀行の前会長木村剛容疑者ら五人が警視庁に逮捕された。金融庁の検査を妨害した疑いだ。小泉政権時代に同庁顧問を務め、金融改革の旗手とも呼ばれた人物の不正行為は言語道断だ。
金融庁が昨年五月に日本振興銀行に対し、立ち入り検査を通知した。その直後、同行のサーバー内に保管されていた電子メール約二百八十通が削除された。これが検査妨害に当たるというのが、今回の事件の逮捕容疑である。
もともと日銀マンだった木村容疑者は、金融コンサルタントとなり、一九九〇年代末からマスコミに頻繁に登場するようになった。旧金融監督庁が作っていた金融検査マニュアルの検討委員を務めたこともある。
経歴から見れば、本来は金融検査の“審判”であるべき人である。日本振興銀行は二〇〇四年に設立し、翌年には木村容疑者が社長に、さらに会長に就任した。銀行経営の“プレーヤー”になって立場を変え、審判の目を忘れて、不正に走ったのなら、あきれる。
木村容疑者は否認しているが、警視庁によれば、金融庁の通知後に対策会議を開き、自ら指示してメールを削除させた疑いもあるという。事実ならば極めて悪質だ。
小泉政権時代には竹中平蔵元金融担当相のブレーンだった。大手銀行に徹底的な不良債権処理を求め、金融界では「過激派」とも「強硬派」とも呼ばれていた。その結果、金融再編は進んだが、中小企業への貸し渋りや貸しはがしの深刻な事態も起きた。
そんな中で、木村容疑者は「中小企業を元気に」をスローガンに日本振興銀行を立ち上げた。中小企業向けに特化した融資事業を始めたものの、思い描く経営はできなかった。とくにグレーゾーン金利の撤廃で、商工ローンなどの債権買い取りビジネスへと転換していったことが、今回の事件の背景にあるようだ。
昨年二月に経営破綻(はたん)した商工ローン大手SFCG(旧商工ファンド)との債権売買取引でも疑惑が浮上している。出資法の上限金利(29・2%)を上回る45・7%の実質金利を手数料として取得していた疑いだ。他の不透明な取引もあるという。どんな経営実態だったのか、捜査で膿(うみ)を出してほしい。
政権に接近して、自らの中小企業向けビジネスを過信したのだろうか。しわ寄せで苦しむのは、やはり中小零細企業では、何ともやりきれない。
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