スーパーで見かけるカジキマグロはマグロの仲間ではない。尖(とが)った上あごを持つカジキ類だ。なぜ誤解されているのだろう。東京・築地の仲卸の間では、一九五四年にビキニ環礁で、第五福竜丸が米国の水爆実験で死の灰を浴びた事件がきっかけだという説がある▼この時、船に積んでいたカジキとマグロも放射能を浴びた。マスコミが「死の灰を浴びたカジキマグロが…」と間違って報じ、カジキマグロの通り名が使われるようになったという話だ▼それ以外にも、マグロの名を付した方が消費者の受けがいい、大きさや高速で泳ぐ生態が近い、など諸説あるようだ▼気になって、国語大辞典で調べると、明治初期の『博物図教授法』にこんな記載がある。「旗魚(かじとほし)は東南海にて漁する大魚にして東京にては之をカヂキマグロと称し…」▼何ていうこともない。昔から、その名は通称として使われていたのだ。カジキとマグロの間に句読点を打ったかどうかは、少なくとも関係なさそうだ。新聞記者の端くれとして少しほっとした▼いまよりも流通事情が悪かった時代、色が変わりにくいマカジキはマグロの代わりとしても貴重だったらしい。宮城・気仙沼港ではこの時期、一日平均五百本のマカジキの水揚げがある。クロマグロほどの脂はないが、甘味と酸味のバランスがほどよく、刺し身は絶品だという。