嘉田由紀子滋賀県知事の「もったいない」県政一期目は大量得票で信任された。しかし二期目となれば、正す人から創(つく)る人への変化も要求される。「もったいない」の進化と真価が試される。
嘉田人気は盤石だった。琵琶湖に恋をし、その研究者として湖岸を歩き、培ったという人気である。県政史上最多、四十二万票近い草の根の信任は重い。
初当選時は、地元に過大な負担を強いる東海道新幹線新駅誘致の是非に、ほぼ争点が絞られた。嘉田知事は政党によらない県民党を旗印にして「新駅凍結」を掲げて立った。折から吹いた無駄な公共事業の廃止、コンクリートから人への風に乗り、なじみやすい「もったいない」のワンフレーズは、県民の心に染み入った。ダム建設の凍結などにも踏み切った。
だが一方で、自治体との間に摩擦を呼んだ。もったいない県政は「減らすばかり」「壊すばかり」と、大津市や近江八幡市などの五市長が有志の会を結成し、今回の対立候補を押し立てた。
嘉田知事は「もったいないは本来、節約することではなく、潜在力を生かすこと」と言い、「もったいないプラス」を新たなスローガンにして、再選を勝ち取った。
プラスとは、主に成長戦略だ。マニフェストの項目は前回の三倍に当たる百五十項目に増え、内容も前向きだ。環境配慮型産業の誘致で雇用創出を図る県版グリーンニューディール政策のもと、百件の企業誘致を目指すという。だが、年度末には県債残高が一兆円を超えるという台所事情を見れば、容易ではない挑戦だ。
四月には、トップセールスが実を結び、栗東市の新幹線新駅予定地跡に、世界最大規模の電気自動車用リチウム電池工場の進出が決まり、企業誘致は幸先よく動きだしている。大都市に近く、交通の利便性が高い立地条件が評価を得た。これを呼び水に、地道に実績を積み上げながら財政の立て直しを図り、財源の裏付けを明らかにしつつ、教育や医療の充実に向けた無理のない道筋を示すこと、それがプラスの意味だろう。
風はいつかはやむものだ。どんな人気も永遠には続かない。今度の参院選の結果を見ても明らかだ。二期目の嘉田県政が「もったいないプラス」を政治的な理念から、滋賀県の潜在力を引き出す手段に高めることに成功すれば、それは地域主権の時代をひらく格好のモデルになるはずだ。
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