参院選は与党過半数割れに終わった。衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」の再現だ。停滞を避けるには、ねじれを解くために知恵を絞るしかあるまい。
昨年八月三十日の衆院選で、有権者が自民党から民主党への政権交代を選択してから約十カ月。再び「選挙の夏」がやってきた。
民主党に政権を託したのは正しかったのか、菅直人民主党新代表は首相にふさわしいのか−。
有権者がさまざまな思いを、選挙区と比例代表のそれぞれの一票に託したことだろう。
そして有権者が出した結論は、「与党の過半数割れ」だった。
◆誤算だった消費税
鳩山由紀夫前首相が「政治とカネ」と米軍普天間飛行場の返還問題をめぐる混乱の責任を取る形で突然辞任。参院選勝利を優先した「政権たらい回し」との批判を浴びながらも、後を継いだ菅内閣の支持率は発足当初60%を超えた。
しかし、高支持率は長くは続かず、厳しい選挙結果になって表れた。その最大の誤算が「消費税」にあったことは、菅首相や民主党が認めている通りだ。
消費税は歴代政権の命運を決定付けてきた政治的難題である。八百兆円を超える国と地方の長期債務残高を前に、首相が消費税論議の必要性を選挙で訴えた問題意識自体は理解できなくもない。
ただ、最終的には増税が避けられないにしても、税金の無駄遣いをなくしてからというのが有権者の率直な思いではなかったか。
消費税問題をいきなり持ち出した唐突さを、有権者は嫌った。
鳩山前内閣時代を含む民主党政権の約十カ月間も問われた。
政治主導の政策決定、「コンクリートから人へ」の予算配分、行政の無駄排除、緊密で対等な日米関係など、マニフェスト政策を実現する政権担当能力に、有権者は厳しい中間評価を下した。
◆国民本位の協力を
通常国会終盤には強引な国会運営も目立った。有権者は、そうした民主党の「暴走」に歯止めをかけようとしたのだろう。
首相は記者会見で「あらためてスタートラインに立った気持ちで責任ある政権運営を続けたい」と続投の意向を表明した。
とはいえ参院での国会運営は厳しくなり、手を打たなければ、国政の停滞は避けられない。
予算や条約は参院で否決されても、衆院で可決すればその議決が優先されるが、法案は両院で可決されなければ成立しないからだ。
二〇〇七年の前回参院選で当時与党の自民、公明両党が過半数を失い、福田、麻生両内閣は国会運営に苦しんだが、それでも衆院では三分の二以上の議席があり、再議決という手段が残されていた。
今は民主、国民新両党を合わせても衆院の議席は三分の二に満たず、状況は福田、麻生両内閣当時よりも厳しくなっていることは否定のしようがない。
連立の枠組みを替えるのが一つの手段だが、民主党が連立相手として想定している公明党とみんなの党はいずれも連立を否定しており、現時点では可能性は低い。
ならば、当面は政策ごとに野党と連携する「部分連合」でしのぐしかあるまい。
来年度予算編成に向けた本格的な作業が近く始まる。厳しい財政状況下で真に国民に必要な施策をどう実現するかは、与野党の枠を超えて取り組むべき課題だ。財政健全化や年金などの社会保障、普天間問題や「政治とカネ」にどう臨むかも同様である。
政権交代が当然のように起こる時代では与党が参院では必ずしも多数党となり得ないことを、ここ数回の参院選は示す。
自民党の谷垣禎一総裁は衆院解散を求める一方、民主党との協議に応じる余地も残したが、野党側も国民のために協力を惜しむべきでないのは当然だ。与野党がともに課題解決の作業を重ねれば、政治は強くなるに違いない。
その前提として民主党が一致して難局に臨むことが肝要だ。
参院選結果を受け、小沢一郎前幹事長を支持するグループと「反小沢」派の対立が再燃する兆しがあるが、国民そっちのけの党内抗争は繰り返すべきではない。
◆再び「良識の府」に
「良識の府」と呼ばれ無所属議員の多かった参院も、自民党政権時代を通じて政党化が進み、今では政権の命運をも左右する「政局の府」と呼ばれ始めている。
その実態が国政停滞の主因となっているなら見過ごせない。
政党色を薄め、より議員個人の意思を尊重する、採決で党の方針決定に従う「党議拘束」をやめるなどして再び「良識の府」への道を歩み出してはどうか。今回の選挙結果がその契機になるのなら、意義は十分見いだせる。
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