スペインの初優勝で幕を閉じたサッカーのワールドカップの公式ポスターのモデルは、カメルーンのサミュエル・エトー選手だった。アフリカ大陸に模した横顔が、ヘディングしている素敵(すてき)なデザインだ▼国際社会の制裁を受け、アパルトヘイト(人種隔離)を廃止した南アでのW杯の「顔」には、欧州リーグでストライカーとして活躍する彼ほどふさわしい選手はいないだろう▼人種差別的なヤジを飛ばしたサポーターに激怒、監督に交代を直訴したこともあるエトー選手にとっても、二十七年間の獄中生活を闘い抜いた南アのネルソン・マンデラ元大統領は特別な存在だ。「マンデラ氏が生きている国でプレーできるのは素晴らしい」。大会前にそう語っていた▼ひ孫が交通事故で亡くなり、開会式に出席しなかったマンデラ氏は、決勝に先立ちヨハネスブルクの競技場で開かれた閉会セレモニーに姿を見せた▼カートに乗って登場した九十一歳の元大統領は、八万四千人を超える大観衆に応えて、にこやかに手を振った。アフリカ大陸で初開催となった大会の歴史的な成功を世界中に印象付けた▼「祭りの後」には、日本代表の活躍も、ブブゼラの大騒音も、タコのパウル君の見事な予想の的中も、懐かしい思い出になるだろう。そして開催国の南アは、高い失業率や治安の悪さなどの難題に再び向き合う日常が始まる。