政権交代を選択した昨年夏の民意は正しかったか否か。きょう投開票の参院選は、その答えを有権者自らが出す。そして政権にもの申す絶好の機会だ。
東京都千代田区永田町。国会議事堂裏手に新築された十二階建ての重厚な議員会館が、議事堂を圧するように威容を見せている。
三棟のうち一棟が参院の分。三年前の二〇〇七年当選組、つまり今回は非改選の議員事務所の入居が一足早く始まっている。
事務所一部屋百平方メートル、旧議員会館の二・五倍の広さになった。
民間業者に集中管理を委託されたハイテク・オフィスは一見、豪華ホテル並みの快適空間だ。
◆託される大切な6年間
きょう投票の選挙で勝ち上がる百二十一人は任期の六年間、ここに腰を落ち着けることになる。
事務所の広い窓からは同じ仕様の衆院議員会館が見える。そこに入る衆院議員の残る任期は三年ちょっと。政局の展開次第で解散はいつあってもおかしくない。
そういう衆院と違って解散のない参院の議員たちは、じっくり政治に取り組むことが可能だ。
政権交代が違和感なく受け入れられる時代にあって、参院は存在感を一段と増してきている。
〇四年と〇七年の参院選を経て参院の多数派となった民主党は、自民党長期政権を追い詰め、ついに倒した。
「良識の府」のはずの参院はいつしか「政局の府」となり、時の政権の命運を左右する光景がここ数年で私たちの脳裏にしっかり刻まれた。
そのことが良くも悪くも選挙を面白くさせたのは疑いのないところだ。でも、本格的な政権交代を体験した以上、有権者はもう観客席で楽しんではいられない。
内外ともに見通しが利きにくい時代。今後六年を託す一票の行使に、責任を負わねばならないことを、まずは確認しておきたい。
◆ねじれ再現観測の中で
短命政権が続いた政治の混乱に終止符を打てるかどうか、その点にも内外の関心が注がれた。
ところが歴史的な政権交代の熱気から一年もたたず、首相は鳩山由紀夫氏から菅直人氏に代わっている。その菅首相は就任一カ月を超えたばかりのところで、思わぬ内閣支持率急落に顔色なしだ。
メディア各社の世論調査は軒並み「ねじれ国会」再現の可能性を伝えている。政権与党が参院過半数を失い、衆参の多数派が異なってしまうのが、ねじれ状況だ。
菅首相は遊説先でこう言った。「ねじれになればまた物事が動かなくなる」。脅しか本音か。野党当時の民主が政権攻撃にねじれをフル活用したのを思い出す。
政界や報道現場の関心は選挙後の政権枠組みに向かう。参院の多数派確保へ、第三極の政党や、場合によっては自民へも、政権側からの連携工作が活発化するに違いないからだ。
みんなの党をはじめ公明党など野党はすべて選挙後の連携を拒絶している。政権側には早くも手詰まり感が漂いつつある。
一方、野党の自民党。次の衆院総選挙での政権奪還へ確かな支持を取り戻し、足場を再構築できるかが今回参院選のポイントだ。
仮に与党が大敗して首相交代があっても、衆院の多数を握る民主中心の政権は当面変わらない。
もし獲得議席が芳しくないなら責任をめぐる人事紛争は避けられまい。そこは民主と表裏の関係にあるが、いずれにせよ自民は苦しい対応を迫られる。
新党が続々名乗りを上げたのも今回選挙の特徴だ。それぞれ選挙後の政界再編成へ生き残りをかける。
視界不良に有権者も戸惑うところだろうが、ここは冷静に見据えたい。
旧政権下のねじれ時代にも不毛な混乱の一方で、新たな国会のあり方を模索する動きがあった。国民そっちのけの権力抗争に走るかそれとも大局をわきまえるか。しっかりと見極めて選びたい。
経済・財政、社会保障、教育、外交・安保、そして税制と、論点になった政策テーマは幅広い。
とりわけ税や年金、雇用の問題は、人生これからの青年たちに深くかかわってくるものだ。
民主党政権が掲げるマニフェストの変容や、政党間の口汚い応酬に、政治なんてそんなもの、といった、冷ややかな声を聞いた。
政権交代の前も後も結局、政治は何も変わらないでは、青年たちの政治離れ、投票忌避をとやかく言えるはずもない。
◆あきらめずに投票所へ
けれども世代間の負担の在り方にかかわる政策選択が中高年優先でなされてはバランスを欠く。
増税論議も含めてみんなが難しい選択を迫られている。だからこそ今後の日本を支える青年たちにもっと声を上げてもらいたい。
その投票で政権にもの申す。政治をあきらめず、ぜひ投票所へ。
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