現場で見たアトランタ五輪の開会式は、ど派手なショーだった。長野五輪開会式のイメージ監督を務めた新井満さんはそれを“反面教師”にして、長野のコンセプトをこう決めた。「簡素で、厳粛で、魂のこもった」▼いわば、伝統的な日本らしさ。そして、それを体現できるものとして選んだ看板の一つが相撲だった。開会式本番では、冷気もものかは、力士たちが堂々と登場、当時の横綱曙関が土俵入りするのをテレビを通じて世界が見た。もう十二年になる▼野球賭博などにからみ多数の謹慎者を出すなど、未曾有の大相撲危機の中で、あす、名古屋場所が幕を開ける。取組の数は減り、NHKの中継も天皇賜杯もなし。出場力士は、それでも足を運んでくれるファンに報いる相撲をみせてほしい▼考えてみれば、幕末、黒船が来た時にも力士が登場、日本の“威厳”を示すのに一役買った。その黒船の国では「アメリカを知りたければ、ベースボールを知れ」などというが、あえて日本に置き換えるなら、ベースボールに置き換わるのはやはり相撲しかないだろう▼深い傷を負ったのは、一競技のイメージでなく、この国の大事な看板の一つだ。相撲協会は、そのことの深刻さをいま一度かみしめ、どう変わり、何ができるのかを切実に考えなくてはいけない▼力士でも親方でも協会でもなく「相撲」を守るために。