各党が参院選で軒並み公約に掲げながら、論戦が乏しいのが地域主権だ。「改革の一丁目一番地」と言っていた民主党政権の意気込みはどうなったのか。熱意がなければ、どんな文言も響かない。
先の日曜日の四日、民主党の新旧の首相が相次いで名古屋入りし、マイクを握った。
「地域主権で、活力ある社会にしようじゃありませんか」
名古屋駅西口で鳩山由紀夫前首相が訴えた。その一時間前に同じ駅の東側で演説に立った菅直人首相の口から、地域主権の訴えが出ることはなかった。
同党のマニフェスト(政権公約)には、昨年の衆院選と同じく「地域主権」が明記された。しかし財政再建を最優先課題とする菅首相は、鳩山前首相に比べると、地域主権に関心が薄い、と受け取られている。
政府の基本方針となる地域主権の戦略大綱がいったん参院選後に先送りされそうになった。原口一博総務相が慌てて菅首相を説得し、六月下旬に閣議決定した。
大綱には、国が使い道を限る「ひも付き補助金」を、地方が自由に使える「一括交付金」にして渡すことが盛り込まれた。来年度から投資的な公共事業について始めるとしたのは、前進に違いないが、一括交付金の制度づくりは「関係府省と共に検討」するとの文言が加わった。中央官庁が口を挟む余地を残したことは、本気度を疑われても仕方ない。
民主党だけではない。自民党も衆院選の時と同じく、道州制の推進を書き込んだが、どれほど党内で議論を積み上げたのだろうか。
他党も道州制や地方自治の発展などを挙げ、自治体の元首長らの新政党「日本創新党」は「廃県置州」を掲げている。
だが地方を見渡せば、名古屋市の河村たかし市長や大阪府の橋下徹知事ら、独自、活発な自治の動きもある。賛否、論議は呼ぶが、住民の支持も関心も集まっている。そういう時代に、政党がなぜ地域主権か、住民のメリットは何かを示さないのでは、せっかく動きだした自治の勢いが止まってしまう。
少子高齢化も、産業の衰退も、日本の直面する難題が、より深刻に表れているのは、中央ではなく地方である。中央からの画一的な政策でなく、地域が創意工夫できる権限と財源が不可欠だ。
地域の実情を知り、地域主権が必要だと実感しているのなら、もっと熱く語れるのではないか。
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