厚い皮と二十センチぐらいはありそうな白い脂肪が、めりめりとはぎ取られていく。沿岸捕鯨の季節を迎えた千葉・外房の和田浦の港で体長約九メートル、重さ九トンのツチクジラが手際良く解体されていた▼銚子沖などで捕鯨会社が前日捕獲したのは二頭。解体予定時間は、ホームページで告知していた。「隠すことはできないし、隠す必要もないから」と庄司義則社長は自然体である▼国際捕鯨委員会(IWC)の保護対象になっていないこの小型のクジラを捕っているのは、北海道・網走、宮城・鮎川など計四カ所。和田浦では沿岸に近づく六月二十日から八月末までが漁期で、捕獲数は二十六頭に限られている▼解体すれば当然、大量の血が流れる。独特のにおいもある。取材に訪れた海外メディアの中には、血が噴き上がる場面ばかりを強調した映像を流すところもあったと聞いた▼日本沿岸での商業捕鯨の再開を認める一方、南極海の調査捕鯨を縮小するというIWCの議長案は反捕鯨国の反対などで合意に至らなかった。沿岸捕鯨の将来は不透明のままだ▼解体現場には、近所のおばちゃんたちがバケツを手に集まっていた。鯨肉をしょうゆなどで作ったたれに漬け、天日に干して保存食にする。味は家庭ごとに違い、ぬかみそを漬ける感覚だという。歴史にはぐくまれた捕鯨文化は、地域にどっしりと根付いている。