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天声人語

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2010年7月9日(金)付

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 「知のデパート」の静かなる閉店である。享年90。民族学者の梅棹(うめさお)忠夫さんが老衰のため亡くなった。生態学から文明批評へ、究めた領域と足跡は理系文系の垣を越えて広がる。そしてどの「売り場」も千客万来だった▼本人を前に、哲学者の鶴見俊輔さんが先見性をたたえたことがある。「過去50年については、私の知る限りで最もよく当たった人です」と。〈情報産業〉なる造語で今日を見通したのは半世紀近く前。国家を語っても、女性や日本語を論じても眼識は鋭かった▼「本というのは、しょせん誰かが先に言ったことが書いてあるだけ」と、文献より実地調査を重んじた。世界を歩き回り、自らの耳目で紡いだ新説は独創にあふれ、時の常識を覆しもする。「梅棹学」の真骨頂だろう▼欧米への劣等感がくすぶる時代に、ユーラシア大陸の端という共通点から、日欧の文明を対等に論じた。日本を特殊視する欧米人には「こんな事例は世界史にいくらもある」と反論し、返す刀で優越に浸る日本人を戒めた▼米国から名高い社会学者が訪れた時である。日本の学者はみな英語で話すのに、梅棹さんだけ通訳を介した。いぶかるゲストに「私の考えは、私の英語で話すにはデリケートすぎる」。楽しい会話は後輩たちを魅了し、いつも談論風発の中にいた▼65歳で失明するも「雑用が減った」と前を向き、口述で活動を続けた。書斎でもあった国立民族学博物館は、研究資料の扱いを思案中だという。公開するならひと仕事だ。なにせ梅棹デパート、在庫の量が半端でない。

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