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民主党が公約に掲げる高速道路の無料化。その「社会実験」が始まった。結果しだいで、将来も無料化される路線が見つかるかもしれない。だが、無料化すれば納税者の負担が増えることを忘れてはならない。[記事全文]
亡き夫の生命保険金を一時金と年金とに分けて受け取ることにして、その総額に応じた相続税を課せられた。それなのに、別途、年金部分について所得税を納めるよう言われた。これは税の二重取りではないのか[記事全文]
民主党が公約に掲げる高速道路の無料化。その「社会実験」が始まった。結果しだいで、将来も無料化される路線が見つかるかもしれない。だが、無料化すれば納税者の負担が増えることを忘れてはならない。
全国の37路線50区間を対象にした今回の実験では、開始直後に交通量が2、3倍にはね上がったところも少なくない。さまざまな経済効果が確認できる可能性はある。だが、この実験だけでも料金収入の穴埋めに1千億円もの税金が投入されている。
もし民主党がこれまで検討してきたように首都高速と阪神高速を除く全国の高速道路で原則無料化に踏み切った場合、年に1.8兆円もの料金収入を失い、その分が国民負担となる。
民主党は参院選の政権公約でも、全国の高速道路の「段階的な原則無料化」を掲げる。一方、自民党は「高速道路会社の民営化と受益者負担の原則を堅持し、高速道路料金は無料化しない」と公約しているが、納税者へのしわ寄せを招かないという点で、こちらのほうが妥当ではないか。
民主党は必要な財源を歳出の無駄削減などで生み出すとしてきたが、歳出削減だけで巨額の財源を確保できないことは、もはや明らかだろう。
菅政権は、歳出増を伴う新政策には、それに見合う恒久財源を確保しなければならないという「ペイ・アズ・ユー・ゴー原則」を導入した。これに照らせば、高速道路の無料化には増税が欠かせないはずだ。
菅直人首相は消費増税を検討する方針を掲げている。増税分は、雇用を生み出す分野に集中的に投じたり、基盤が崩れかかっている社会保障の立て直しの財源にしたりする構想である。これはぜひ実現してほしい。
首相の準備不足もあって、選挙遊説での世論の反応は厳しい。しかし、菅首相はこれからも増税についての基本的な考え方や使途を丁寧に説明し、国民の理解を得る努力をすべきである。ただ、その際に優先すべき税金の使途として高速道路の無料化を説いて、国民の支持を得られるだろうか。
巨額の財源を要する政権公約の見直しなしには、消費増税への国民の理解は得られない。そうした厳しい現実に、菅政権と民主党はもっと真剣に向き合ってもらいたい。
財源以外にも問題は多い。
無料化は自動車の利用を促進し、二酸化炭素(CO2)の発生量を増やしかねない。これはCO2大幅削減を図る民主党方針と矛盾する。
さらに、高速道路と並行して走る鉄道やフェリーなど公共交通機関の存続に影響が出て、交通弱者の足を奪う結果になりかねない。
実験では、こうしたプラスとマイナスの効果を総合的に判断すべきだ。
亡き夫の生命保険金を一時金と年金とに分けて受け取ることにして、その総額に応じた相続税を課せられた。それなのに、別途、年金部分について所得税を納めるよう言われた。これは税の二重取りではないのか――。
長崎市の主婦のそんな訴えが最高裁で認められ、税務署の課税処分が取り消された。主婦に戻る金額はわずかだが、影響は大きい。全国で同様の二重課税がなされており、還付請求などの動きが広がるのは必至だ。
国民から税を集め再配分する。それが政治の原点だ。そこに不公正やゆがみがあれば、社会の信頼は得られず、国の大本を揺るがすことになる。
思えば、近代民主主義は課税に対する異論や抗議を契機に発展してきた。この裁判で明らかになったような市民の常識からかけ離れた税務行政は、深刻な反省を迫られて当然である。
近年、裁判所が課税処分の違法性を厳しく審査する傾向が強まっている。司法に期待される「行政に対するチェック機能の強化」が、税金訴訟の分野でも進みつつあるのは歓迎したい。
とはいえ、課題は多い。
課税処分を争うには、税務当局への異議申し立て、国税不服審判所での裁決、そして裁判と、多くの手間と費用がかかる。コストとの見合いで税務署の指摘にやむなく従っている人も少なくないだろう。そうした「泣き寝入り」のうえに成り立つ行政や司法であっていいはずがない。納税者が主張を貫ける環境を整えることが大切だ。
まずは実務を担う弁護士と税理士の養成である。この層を厚くし、力量を向上させる。税金訴訟に通じているのは一握りの弁護士といわれ、総じて力不足の感は否めないという。弁護士と税理士の連携の充実や、それぞれの権限、教育・研修の内容などについて議論を深め、権利の守り手たる専門家を増やしていかなければならない。
不服審判所のあり方も問われる。裁判を起こす前に審判所の審理を経なければならない現行制度については、争点や主張が整理され、結果として迅速な解決につながるという声がある一方で、二度手間との批判も絶えない。審判官の多くを国税関係者が占める現状を改めて外部登用の道を広げるなど、「納税者の役に立つ」という観点からの総合的な検討が必要だろう。
税の体系は政治的要請を踏まえて複雑になっているうえ、法律ではなく国税当局内部の通達に委ねられている部分も多い。今回の二重課税も通達に基づくものだ。その分かりにくさが壁となり、納税者の前に立ちはだかる。
「税を課すには必ず国民の同意を得なければならない」という、憲法が定める租税法律主義が空洞化してはいないか。そんな問題意識をもって税制全体を点検する作業も求められよう。