<賭け事には愚か者と泥棒がいる>(ベルギーの格言)。確実な勝ちはペテン師の方に回り、愚か者がカモにされるという意味だ。愚かな人間として、賭け事につぎ込む金が手元にそれほどなかったことは、幸運だったと思う▼日本相撲協会はきのう、臨時理事会を開き、大関琴光喜と大嶽親方(元関脇貴闘力)の解雇を決めた。ずらっと並んだ力士と親方衆が一斉に頭を下げる異様な光景は「国技」の危機を強く印象づけた▼力士は幕下まで、数万円程度の場所手当を除くと基本的に無給。十両昇進を果たすといきなり月給約百万円になる。強ければ稼げる勝負師の世界で、金銭感覚がまひするのは容易に想像できる▼閉ざされた部屋の人間関係の中、兄弟子からの賭博の誘いは断りにくい。花札に始まり、常識人なら闇世界との関係を容易に推測できるはずの野球賭博まで、距離は遠くなかったのではないか▼理事長代行には、東京高検の元検事長が就任する。協会幹部の間では、力士出身者ではない人物の就任を拒む意見が強かったという。この時点で、身内の論理が通用すると考える無自覚さにはあきれるしかない▼公益法人として、協会が税の優遇措置を受けていることを親方衆は理解しているのだろうか。自浄能力を求めるのはないものねだりだ。協会幹部は全員辞任して、外の力を借りて生まれ変わるしかない。