日本に観光でやってくる中国人を受け入れる条件が、大幅に緩和された。中国からの客が飛躍的に増えると期待されている。何かと、ぎくしゃくする両国の国民が互いをわかりあう機会にしたい。
中国人への観光ビザは、二〇〇〇年に団体旅行向けの発給が始まった。昨年七月から個人向け観光ビザもできたが、対象は年収二十五万元(約三百二十五万円)以上のお金持ちに限られていた。
七月一日からは対象が大手クレジット会社が年収六万元(約七十八万円)以上に発行する「ゴールドカード」の所持者や、勤め先で役職に就いている人の家族に拡大された。
外務省によると、これでビザを受けられる対象は現在の十倍の約千六百万世帯に増えるという。
ビザ条件が大幅に緩和されたのは、経済成長の続く中国から来る観光客の購買力に期待したためだ。昨年は金融危機の影響で外国人訪日客数が落ち込む中でも、中国からの客は約百万人と過去最高を記録した。観光庁はビザ緩和で中国人の訪日客を一六年には六百万人に増やす目標を掲げている。
往来の広がりで、互いを知り誤解が解けることも期待される。日本を訪れた中国の若者は、よく「日本人が、やさしくてびっくりした」という感想を口にする。
中国では、いまだにテレビのチャンネルをひねれば、軍服姿の日本人が怒鳴っている姿を、よく目にする。祖父母から聞いた話や社会にも広がる「愛国教育」の影響で「日本は怖い」と思い込んでいる若者は少なくない。
百聞は一見に如(し)かず。日本を体験すれば日本人が、どれほど平和的で穏やかに暮らしているか、わかってもらえるに違いない。
日本人にも中国人を知る機会だ。十年ほど前まで、中国の客と店に行くと冷ややかに扱われることがあった。豊かになった中国人への対応はよくなるに違いないが、摩擦は避けられない。
例えば、中国では店に注文を付けるのは当たり前だ。料理の温め直し、持ち帰り。マニュアルにはない対応が迫られる。
摩擦が起きても、互いに悪意はなく習慣の違いにすぎないとわかれば不快に思うことはない。
体験を通し双方が当たり前の人間同士であると実感できるなら、政権やメディアの宣伝で、どれほど反感があおられても効き目はない。それは隣り合う大国が、とげとげしい対立に陥るのを防ぐ最大の防波堤になるだろう。
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