政治家の最大の武器とは、本来、「言葉」だろう。一州議の時代、米民主党大会でのたった十八分の演説で一躍、名を馳(は)せ、四年少しで大統領にまでなったオバマさんがいい例。ただ、わが国の政治リーダーの場合は少し違う▼「ワンフレーズ」で売った小泉元首相はむしろ例外。小沢前民主党幹事長のように、しゃべりは不得手だが実力者というタイプの方が主流かと思う。その意味で注目していたのが菅首相だった▼市民運動から出発した名うての論客。どう「言葉」を力の源泉にするかと見ていたがどうも様子が違う。慣例だった朝夕二回の番記者による「ぶら下がり取材」を一回にしてしまった▼最近も、参院選中にテレビで党首討論をという野党の求めを拒み「逃げている」と批判されている。本人は「一対八(他党党首)ではつるし上げになる」と釈明するが…▼確かに、どっちの場でもあまりやさしい質問は出まい。前任者の例もあり、失言を怖がる気持ちも分かる。だが、ある米政治記者が言ったように「ダメージをもたらすのは質問ではなく答えだ」。答えに自信があれば堂々と受けて立ってほしい▼「全く無名の青年が『言葉』でここまできた」。政権発足直後、官房長官がそう評したのは一体、誰のことだったか。「言葉」を恐れるなんて、一国の宰相として、いや政治家・菅直人に似つかわしくない。