日本、インド両政府が原子力協定を結ぶ交渉を開始した。インドは経済発展がめざましいが、核拡散防止条約(NPT)に加盟せず核兵器も持つ。日本が掲げる非核政策と矛盾しないか。
インドは一九九八年核実験をし保有宣言をした。対抗して核兵器を持った隣国パキスタンとともに国際社会から制裁を受けた。
だが、米ブッシュ前政権は二〇〇七年、インドの経済成長に注目して原子力協定を結んだ。インドが新たな核実験をせず、他国へ核拡散をした事実がないことが締結の根拠になった。
日本も参加する原子力供給国グループ(NSG)は米の要請を受けて、インドを「例外扱い」として核技術の輸出を解禁した。
岡田克也外相は先週、「日本だけが違う判断をするのは困難になってきた」と述べた。インドに対し民生用に限定して原発と関連施設、技術を提供する協定が必要だとの認識を示したものだ。
インドは今後十年間で原発を二十基以上建設する計画がある。日本の産業界は大きなビジネスチャンスだと、協定締結を要請している。欧米も高度な技術を持つ日本の原子力企業の参加を望む。原発は温室効果ガスの削減にも寄与するとの主張もある。
だが、経済優先だけでは、非核外交の原則をゆがめてしまう。輸出した技術が軍事転用される恐れはないのか。監視体制は十分か。国民に説明する責任がある。
交渉の過程ではインドにNPT加盟を強く求めたい。包括的核実験禁止条約(CTBT)の調印、批准も促すべきだ。核軍縮、不拡散に積極的に取り組まないのなら、日本が協定締結を急ぐ必要はない。
インドに対しては、米に続いてロシア、フランスが協定を結び、原発の売り込みを図っている。一方で中国企業がパキスタンと、原子炉二基の建設を支援する契約を結んだ。
核を持つ大国がNPTの枠外で核武装をした印パ双方に「平和目的に限る」という条件で、原子力技術を提供する構図が出来上がりつつある。
ウラン濃縮を続けるイランがこの動きを見て核開発を加速化させれば、NPT体制の形骸(けいがい)化がさらに進むと憂慮される。
日本はインドに核兵器の削減と開発の中止を訴え、米ロや中国にはいっそうの核軍縮を働き掛けたい。唯一の被爆国としての義務である。
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