バットを持ってはにかむ男の子の写真が大きく映し出されている。その横でロバート・カーリーさんは死刑制度への思いを静かに語り始めた。先日、都内で開かれたシンポジウムの一場面だ▼十三年前、米マサチューセッツ州で、十歳だったジェフリー君が二人組の男に誘拐され殺された。最愛の息子を失ったカーリーさんは、死刑を求める発言をメディアで繰り返し、州で廃止されていた死刑の復活を求めて活動した▼二人の裁判は、腕利きの弁護士を雇った金持ちの主犯より、従っただけの貧しい男に重い刑が下された。不公正な司法の現実に疑問が芽生えた。「死刑に賛成しなければ息子に申し訳ない」と悩んだが、多くの遺族と会い、考え抜いた末、死刑反対を公言するようになる▼カーリーさんが属する「人権のための殺人被害者遺族の会」は、犯罪被害者団体が数多くある米国でも死刑反対を主張する唯一の団体だ。いま五人のメンバーが来日し、体験を語っている▼「死刑という新たな殺人を繰り返してほしくない」。遺族として死刑に反対するという思想に、国家が命を奪う究極の刑罰の意味をあらためて問い直してみる▼世論調査では「死刑容認」は八割を超えるが、自分とは無縁の世界と考える人が大半だろう。これからは違う。裁判員裁判の審理で、私たちは死刑に正面から初めて向き合うことになる。