三月期決算企業の株主総会がピークを迎えた。今年から上場企業は年間一億円以上の報酬を受け取る役員名を開示するなど情報公開の範囲が広がった。成長戦略を含め説明責任をしっかり果たせ。
日産自動車のカルロス・ゴーン社長八億九千万円、ソニーのハワード・ストリンガー会長兼社長は自社株購入権を除き四億一千万円。一方、リコール(無料の回収・修理)問題を陳謝したトヨタ自動車の豊田章男社長は一億円未満−。こんな報酬実態が初めて明らかになった。
役員報酬の開示はこの三月、金融庁が内閣府令を改正して急きょ決めた。一億円以上の報酬を受け取る役員名と報酬額、決め方を有価証券報告書に記載することを義務付けた。これまでは役員全員の報酬総額だけの開示だったから企業側から「プライバシーの侵害だ」と反発する声もあった。
だが、報酬開示は米国の金融会社のように経営が破綻(はたん)しても巨額な報酬を受け取るケースを防ぐことが狙いだ。英国やドイツ、フランスなどでも実施されているから日本の導入は遅すぎた。
すでに開催された大手企業の総会では「役員はもらいすぎ」との厳しい意見が出ている。株主の不満には株価や配当の低さ、勤労者の所得水準などもある。経営者には今後も自制が求められよう。
また今年の総会から合併や提携、役員選任など個々の議案の賛否結果も、臨時報告書に記載することが義務付けられた。これまでのように「賛成多数で承認された」では済まなくなった。
役員選任で反対票が多く出た役員は、株主の厳しい視線と圧力を背に受けながら業務を執行することになる。役員報酬の開示と議案の賛否結果の公表は、経営者全員に覚悟を求めるものだ。
数年前に導入した敵対的買収への企業防衛策を継続するかの議論や、導入が間近に迫る新たな国際会計基準への対応なども総会で諮るべきテーマだ。
企業の将来像をどう描きどのように推進するのか。また事業再構築や不祥事があればその対処策など、経営者はすべての課題にはっきりと説明しなければならない。社外取締役の設置義務化などについても姿勢を示すべきだ。
株主総会で求められる企業情報の開示は一部の利害関係者のために行うのではない。法令順守とともに社会的責任を果たす一環だ。経営者は責務の重さをかみしめて仕事に全力投球してほしい。
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