未明の街に歓声が響いた。サッカー日本代表がみごとな戦いを見せた。ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会で決勝トーナメント進出。確かな可能性を感じさせる大きな一歩だ。
二十五日未明に行われたW杯一次リーグの日本−デンマーク。過去には欧州選手権で優勝もしている強豪に対して、日本代表は堂々たる戦いぶりを繰り広げた。相手の攻撃をしっかりと受け止めて自分たちのペースに持ち込み、めぐってきたチャンスは逃さない。前半、早々と先制すると、あとはあせりの出た相手をすべての面で圧倒した。まずは文句なしの勝利と言っていい。
これで一次リーグを二勝一敗とし、二〇〇二年の日韓大会以来二度目、海外の大会では初めてとなる決勝トーナメント進出が決まった。この大一番で目を引いたのは選手たちにみなぎる自信と、それがもたらした落ち着きだ。過剰に気負わず、強敵に気後れもせず、余裕さえうかがわせて、バランスのよくとれた攻守を維持した九十分。さまざまな挫折や紆余(うよ)曲折をへて臨んだ南ア大会だったが、彼らはここで間違いなくステップをひとつ上がったと言えるだろう。
開幕前の評価からすればまさに予想外ともいえる大活躍が感じさせるのは、将来へ向けての豊かな可能性だ。
八年前の日韓大会で16強に入って以後、日本代表のたどってきた道のりは平たんではなかった。四年前のドイツ大会は一次リーグ敗退。方向性が定まらず、足踏みが続いた時期もあった。今大会直前には強化試合で四連敗を喫している。それもまた上昇のための要素だったに違いない。高い志を持ち、挫折もいとわずに多くの経験を積み重ねていけば、必ず道は開けていく。かつては夢のまた夢だった高みへの可能性も見えてくる。本大会の大勝負で殻を破った代表チームは、そのことを明快に示しているようだ。
さまざまな面で可能性に乏しい社会となりつつある今日。代表のはつらつたるプレーに元気づけられた人々も少なくなかろう。あきらめずに夢を、可能性を追い求めていれば、いつか何かが起きる。そんな素朴な希望を単純明快に抱かせてくれるのが、スポーツのよさというものだ。
さあ決勝トーナメント。この勢いからして、日本代表はまだまだ上昇していきそうだ。彼らにはもっと豊かな可能性、もっと大きな希望を見せてもらいたい。
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