HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 21075 Content-Type: text/html ETag: "157e29-5253-a2be4980" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 26 Jun 2010 03:21:06 GMT Date: Sat, 26 Jun 2010 03:21:01 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
急ぐべきは財政再建か、それとも景気回復か。世界が直面する難題に答えを見いださなければ、市場の動揺はおさまらない。
カナダで開くG20サミット(20カ国・地域首脳会議)の課題は重い。リーマン・ショック後の世界金融危機と同時不況を克服しようと始まったG20は、世界経済を恐慌のふちから救い、協調の成果を積み重ねてきた。ところが今回は、米国と欧州連合(EU)諸国の対立が根深い。
背景にあるのは米国経済の変調だ。景気対策の息切れで住宅販売が急減し、失業率が高止まりしている。ここは輸出で稼いでしのぎたい。オバマ政権は世界に対して「引き続き景気回復と経済成長の支援策を続けるべきだ」と、財政の引き締めには時間をかけるよう主張している。
一方のEUは「財政再建が最優先」との立場だ。財政危機に陥ったギリシャだけでなく、ポルトガル、スペインなどでも財政不安が募る。赤字国の国債を保有する欧州の金融機関の経営にも懸念が深まっている。火消しに躍起なEU当局は主要金融機関への特別検査を行い、7月に結果を発表する方針を打ち出した。だが、政府と金融機関の信用が共振するように揺らぐ状況に改善のめどは立っていない。
財政赤字に対する市場の不信をぬぐおうと、ドイツや英国など主要国は増税や歳出カットによる財政再建策を相次いで打ち出した。「最大の脅威は財政危機」との認識から、国民に痛みの甘受を求める策だ。
しかし、それによって欧州の内需が収縮すれば、世界経済の回復の足を引っ張りかねないのも事実だ。このため、秋の中間選挙を控えて経済の急激な失速を何としても避けたい米国と、欧州諸国がG20の場で対立しかねない構図が生まれている。
しかし、大事なのは、危機を克服するために生まれたG20が、新たな世界危機の封じ込めに有効に機能することを示すことである。
成長と財政の二兎(にと)を追う道は極めて細い。それでも政策の優先順位に関する見解の相違を乗り越えて、メッセージを発信しなければならない。
財政再建と成長の両立が必要なことは世界の共通認識といってよいだろう。それを確認しつつ、国や地域ごとの実情に応じた取り組みを認めれば対立は克服できるのではないか。
この意味でも、初参加の菅直人首相は注目に値する。「増税による財政再建と景気回復は両立する」との主張について、世界の首脳らを納得させる説明をしてもらいたい。
それができれば、G20の成功に大きく貢献するに違いない。同じ説明は多くの日本国民も聞きたいと考えている。内外の信頼をかけた舞台である。
青いジャージーが躍動した。
サッカー日本代表がワールドカップ(W杯)でデンマークに快勝、海外開催のW杯で初の16強入りを決めた。テレビの前で本田選手らのゴールに歓声をあげた人は少なくなかっただろう。
前回優勝のイタリアが敗退。準優勝だったフランスも監督と選手の確執で空中分解し、1勝も出来ぬまま消え去る大荒れの大会だ。日本チームの結束力と着実な闘いぶりが光る。
高さとパワーを誇るデンマークとの対戦は、引き分けでも16強という条件下での試合だった。だが、攻めの姿勢を貫き、勝利をもぎ取った。
チームや選手のプレーに自分の人生や社会の今を重ね、壁を乗り越えるヒントをもらう。スポーツ観戦のだいご味にはそんな側面もあるが、とくにW杯にはその力が大きい。日本代表の躍進からも、様々なメッセージが受け取れそうだ。
例えば組織力。個々の選手が最大限に力を発揮する。それが有機的に結合すれば、1足す1を3にして敵に立ち向かえる――。そんな意識が全選手に浸透しているようだ。
「指示」と「判断」の使い分けも巧みだ。4年前は、自主性を重んじるジーコ監督が戦術的にも選手を縛らなかった。結局は戦う方向性を選手が見失い、惨敗した。今回、選手たちは、岡田監督の指示を念頭に置きつつ、状況を各自が分析し、互いの意思疎通で攻守を組み立てるしなやかさを見せた。
適応力もそうだ。岡田監督が当初目指した、パスを細かくつないで攻める「日本らしいサッカー」は、アジアでは通用しても、世界では厳しかった。その現実にW杯直前の強化試合で直面し、大幅に戦術変更せざるを得なかった。
それでも、選手に大きな動揺はなかった。方針変更を冷静に受け入れ、勤勉に、個々の仕事に徹し切った。
サッカーは国境がなくなり、グローバル化したスポーツだ。日本代表23人の中にも、欧州リーグなど海外でプレー経験があるか、現在所属している選手は半数ほどにのぼる。
異質な環境に身を置き、適応し、自己変革を重ねていく。そんな姿勢が、大舞台でも竹のようなしなやかさと強さにつながっているようだ。
岡田監督が大会直前になって抜擢(ばってき)したゴールキーパーの川島選手は、W杯で戦いながら成長を続けている。若さが秘める可能性の大きさも改めて印象づけた。
高い理想を掲げ、軌道修正しつつも夢を追い続ける日本代表に、多くの人々が励まされた。とりわけ、閉塞(へいそく)感が漂うといわれて久しい日本社会にとって、すてきな贈り物だ。
チームが「8強」に挑む姿からも豊かなメッセージを受け取りたい。