今、真っ最中のサッカーW杯で、選手たちのぶつかりあいの激しさに目を見張っている人も多いことと思う▼その「ぶつかりあう」を課題作品のテーマにしたのが、高校生を対象にした東北大の「第三回青春のエッセー 阿部次郎記念賞」。最近、入選作品集を送っていただいた。課題の部の最優秀「川底のハリネズミ」は、青森県の高校生の作品だ▼往来で人の体と体がぶつかりあうことから、人の心と心のぶつかりあいへと思索を展開し、なるほど選評にある通り「高校生離れ」した文章だ。中で巧みに用いているのが「ハリネズミのジレンマ」という寓話(ぐうわ)▼寒いので身を寄せ合うが互いの針が痛いので離れざるを得ない。しかし、寒さゆえまた近づき…。何度も繰り返すうち適切な距離を知る−。多分、ドイツの哲学者ショーペンハウアーが『随感録』に書いた寓話に由来する「ヤマアラシのジレンマ」がどこかで転じたものと思う▼何にせよ、よくできた社交指南に読めるが、肝心なのは最優秀作も言うように、針の痛みを恐れて、はなからぶつかりあいを避けてしまうことへの戒めだろう。教師と生徒、上司と部下、親と子…。実際、様々な関係で時に遠慮しすぎがいわれる▼ファウルにならないギリギリの間合いも大事。でも、審判の笛を恐れてぶつかりあいを避けるようなサッカーでは、到底勝利は望めない。