参議院選挙がきょう公示される。消費税、普天間問題など争点は多岐にわたるが、民主党政権の行方を決める重要な選挙だ。論戦に耳を澄ましたい。
今回の参院選は、昨年の政権交代後、初の国政選挙であり、約九カ月間の民主党政権に対する中間評価を問う選挙だ。
選挙結果は、菅直人首相の政権運営に大きな影響を与える。
与党が過半数を維持すれば、政権基盤は安定し、菅内閣は本格政権になる。逆に、過半数に達しなければ、参院で少数与党状態が再び起き、連立の組み替えや政界再編に向けた胎動が起きるだろう。
唐突な増税争点化
消費税がにわかに争点に浮上したのは、民主党が参院選マニフェストに「消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始する」と書き込み、首相が「自民党が提案する10%を一つの参考にする」と述べたためだ。
鳩山由紀夫前首相が任期中の消費税率引き上げを否定していたため、菅氏への首相交代で、民主党政権が税率引き上げに一気に前のめりとなった印象を受ける。
「消費税」は歴代政権の命運を決定付けてきた政治的難題だ。
消費税を導入した竹下登首相は早期退陣を余儀なくされ、税率を3%から5%に引き上げた時の橋本龍太郎首相は参院選に敗北して退陣した。
財務相を務め、ギリシャの財政危機を目の当たりにした菅首相が財政再建や持続的な社会保障制度のために税率引き上げに挑む意気込みは理解できなくもない。
しかし、民主、自民の二大政党が消費税を含む税制改革で足並みをそろえ、引き上げを前提にして選挙戦が進むことには、率直に言って違和感を禁じ得ない。
税率を上げる前に
広く課税する消費税の引き上げは、最後の手段であるべきだ。
行政の無駄を徹底的に削ることが先決であり、それをやり遂げる前に消費税論議が本格化すれば、無駄を削る手綱が緩みかねないし税率引き上げに対する国民の理解も到底得られるとは思えない。
そもそも、デフレ下の消費増税は、景気をさらに冷え込ませる最悪のシナリオである。それは5%への引き上げで実証済みだ。
「逆立ちしても鼻血も出ないほど無駄を削ってから」と語っていたのは菅首相自身であり、それ故に、唐突な消費税論議に戸惑った有権者も多かったろう。
発足当初60%を超えていた菅内閣支持率が、首相が「消費税率10%」に言及した途端、急落したことに、それが表れている。
税制論議を封じるべきではないが、まずはデフレ脱却と、行政の無駄をどう削るのかという議論を各党間で徹底的に行うべきだ。
さらに、どのような社会保障の未来像を描くのか、公務員の数や給与水準、国と地方の関係をどう変えるのか、どこまでを国がやり、何を民間に任せるのかなど「国のかたち」についての議論も盛り上げなければならない。
さもなければ、必要な国家予算額を計算できず、消費税論議のスタート台にすら立てないからだ。各党の論戦に期待したい。
もう一つ忘れてならないのが、鳩山前首相の退陣理由の一つになった米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の返還問題だ。
きのう就任後初めて沖縄県を訪問した首相は、沖縄全戦没者追悼式でのあいさつで「米軍基地が集中し、大きな負担をお願いしていることに全国民を代表しておわびする」と述べた。
在日米軍基地の約75%が集中する沖縄県民の苦悩に寄り添う姿勢は評価するが、問われるのは基地負担を実際に取り除く実行力だ。
首相は普天間問題について、名護市辺野古に県内移設する日米合意を踏襲する方針を明言する一方で、沖縄県民の負担をどう軽減するかは明らかにしていない。
首相は二十七日にオバマ米大統領と初の首脳会談を行う。日米安全保障条約改定五十年の節目に、県内移設では沖縄県民の過重な基地負担を抜本的には取り除けないと提起してはどうか。
各党間でも在日米軍基地のあるべき姿を活発に議論してほしい。
一票に思い込めて
昨年の衆院選で、有権者は歴史的な政権交代を選択した。参院選は、その選択を検証する機会だ。
政権交代をよかったと思う人、期待を裏切られたと思う人、「政治とカネ」の問題に嫌気がさした人…。参院選に臨む有権者の思いはさまざまだろうが、肝心なことは「政治をあきらめない」ことだ。
各党、候補者の論戦に耳を傾け、公約を読み比べ、自らの思いを投票にぶつけてみてはどうだろう。一票の積み重ねが、この国の将来を決める。そう固く信じて。
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