常用漢字が二十九年ぶりに改定される。パソコンやケータイで文字を打ち、読む時代を反映し、大幅に増える。使いやすく、表現の幅が広がるのはいいが、子どもたちが混乱しないようにしたい。
戦後の漢字改革は、一九四六(昭和二十一)年の当用漢字表(千八百五十字)の制定に始まる。アルファベットなどに比べて数が多く複雑な漢字が教育向上の障害だとして、漢字を制限する傾向が強かった。八一(同五十六)年の常用漢字表(千九百四十五字)の制定では、逆に「日本語をより美しいものにするために、ゆとりを持たせるべきだ」との声が強まる。「漢字使用の目安」と位置付けるなど運用を弾力化、字数も九十五字増えた。
今回の改定では、「すべての漢字を手書きできるようにする必要はない」と明記した上で、百九十六字を追加し、五字を削除。全体で現行の約一割増の二千百三十六字となった。
大幅増を後押ししたのが、活字離れを招くといわれるパソコン、携帯電話などの情報機器の発達だというのは皮肉でもある。読めても書けない漢字が、簡単に“書ける”。
その上、漢字検定の定着、書道ブームなど、漢字は身近になっている。さまざまな漢字を使いこなすことで表現の幅が広がるのは素晴らしいことだ。歓迎したい。
ただし、検討が不十分なところも散見される。内閣法制局の要望で「毀損(きそん)」の「毀」や「禁錮(きんこ)」の「錮」などが入った。これらの言葉では、「棄損」「禁固」といった書き換えが新聞などではおおむね定着してもいる。正字ではあるが、官の都合だけで増やした印象だし、文字は時代とともにある。
文化審議会は、定期的な見直しが必要とした。「障碍(しょうがい)」の「碍」などが候補に挙がっている。社会的要請には留意したい。
問題は、学校の対応だ。学習指導要領では、高校卒業までに常用漢字の読みに慣れ、主な常用漢字が書けるようにすることになっている。追加された漢字のうち、「遜(そん)」「謎(なぞ)」「遡(そ)」は、しんにょ(ゅ)うの左上の点が一点でも二点でもいいとされた。混乱を招かないか。
文部科学省は、有識者会議を発足させ、対応を協議する。学習指導要領での取り扱いも含めて検討するという。漢字は文化の重要な担い手の一つ。分かりやすく、使いやすく、混乱なくを第一に論議を進めてほしい。
この記事を印刷する