HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 21285 Content-Type: text/html ETag: "20c91d-5325-e9050d80" Cache-Control: max-age=3 Expires: Sat, 19 Jun 2010 21:21:04 GMT Date: Sat, 19 Jun 2010 21:21:01 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):社説
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キルギス内乱―破綻国家にしてはならぬ

 このままでは、世界は、また新たな破綻(はたん)国家を抱え込むことになる。そんな懸念を抱かせる事態だ。

 中央アジアのキルギス南部で激しい民族衝突が起き、公式発表で約200人が死亡した。実際の死者数はその10倍との見方もある。避難民も約40万人に上るという。

 衝突したのは多数派のキルギス系住民と少数派のウズベク系住民だ。避難民の大半はウズベク系で、隣国ウズベキスタンとの国境地域などに逃れ、平均気温35度という酷暑の中、多くが屋外での生活を強いられている。

 この人道危機には、国際社会による緊急支援が必要だ。国連安全保障理事会などで、国際平和維持部隊の派遣も視野に入れた打開策も検討するべきだろう。

 旧ソ連域内の例にもれず、衝突の背景は複雑だ。キルギスでは今年4月、民衆蜂起でバキエフ前大統領が失脚し、臨時政府が発足した。しかし、まだ統治は安定していない。とりわけバキエフ氏の地盤である南部では、衝突前から同氏の支持者らによる暴動などが続いていた。背後には、民族対立に火をつけ混乱に乗じて復権を狙うバキエフ氏派がいるという見方を、臨時政府や米高官が示している。

 その臨時政府にも問題が多い。幹部が早くも親族らを要職に就けて国民の反発を招いている。バキエフ氏だけでなく、その前任のアカエフ氏も取り巻きによる利権支配を批判されて大統領の地位を追われたというのにである。

 こんな有り様だから、旧ソ連で最貧の水準にある経済の再建という、喫緊の課題にも手が着いていない。

 もしこのまま民族対立が長期化すれば、打撃を受けるのはキルギスだけですまない。地理的にも政治的にも重要な位置にある国が統治機能を喪失する事態は、国際社会にとっても悪夢だ。

 ソ連時代、中央アジアでは民族の居住地域を無視して連邦を構成する共和国の境界が引かれた。宗教的にはイスラム教徒が大半だが民族は多様。キルギス南部にも多くの民族が混在する。戦乱の続くアフガニスタンも近く、イスラム過激派の影響力も大きい。

 中央アジア諸国だけでなく、ロシアも巨大なイスラム人口を南部に抱える。イスラム人口が多く中国が神経をとがらせる新疆ウイグル自治区はキルギスに隣接している。キルギスをアフガンでの軍事作戦の重要な補給路としてきた米国も難しい対応を迫られる。

 ソ連崩壊後、米国とロシアは、中央アジアへの影響力を競ってきた。しかし、地域の安定を脅かすキルギスの事態は、米ロが協力しなければ解決は難しい。ロシアのメドベージェフ大統領は今月22日から訪米する。オバマ米大統領との会談で、事態打開への関与の方針を定めてもらいたい。

新常用漢字―豊かになってもやさしく

 パソコンや携帯端末で文章を書くことが広がった時代には、どんな漢字の使い方がふさわしいか。そのことを文部科学大臣から諮問され、検討していた文化審議会が、新しい「常用漢字表」の答申を出した。社会生活で使う漢字の目安を示す「常用漢字」が1981年に決められてから、初めての改定だ。内閣が年内に告示し、法令、公用文書、出版物などの漢字使用のおおよその基準になる。

 手で書くのは難しいが、パソコンなどで変換し、読むことはできる。そんな字が増えている状況を踏まえ、改定作業では、漢字をコミュニケーションの手段としてより使いやすくすることが重視された。196字を追加し、使用頻度が低い「匁」など5字を削り、新しい表には2136字が並ぶ。

 新しい字が加わった文はどんな顔つきになるか――。

 「嵐」が去り山「麓」に「爽」やかな「虹」が出た。

 「妖艶」な美「貌」、「謎」めいた「瑠璃」色の「瞳」に、「畏」れにも似た「憧」れを抱く。

 「旦那」が、好物の天「丼」と「麺」類と「煎餅」と「鍋」料理と焼「酎」の「匂」いに、「喉」を鳴らす。

 「崖」下の「闇」から「拳」銃で「俺」を「狙」うのは「誰」だ。(「」内が追加された字)

 漢字は意味を担った文字だから、うまく使うと文章に膨らみが増す。

 真し=真「摯」、破たん=破「綻」、ち密=「緻」密、戦りつ=戦「慄」といった、意味がとりにくい漢字と平仮名の交ぜ書きが解消されるのも歓迎だ。

 常用漢字表はあくまで目安だ。固有名詞や、個人が使う字を縛るわけではない。文章表現をより豊かにするためにも、多彩な漢字の使用は望ましい。

 しかし、多くの人が読む文章では、一定の節度も必要だ。字を覚える子供たちに過剰な負担を強いたり、日本語を学ぶ外国人をくじけさせたりするようでは困る。学校で教える漢字は数を抑え、公文書などでは難しい漢語を避ける努力を怠ってはならない。

 答申も触れているが、広げたいのは読み仮名の活用だ。漢字への抵抗感が減るし、難しい言葉は読み方を手がかりに辞書で調べることもできる。漢字を身近にするのに効果的だろう。

 読めればいい漢字が多い一方で、書くことの大切さも忘れるわけにはいかない。教育現場では、点や線のわずかな向きの違いや、「はね」のあるなしなどに目くじらをたてる書き取りテストで漢字嫌いを増やさぬよう配慮しながら、手書きも重視してもらいたい。

 文字を「打つ」ことの広がりと並行して、書道に親しむ若い世代が増えている。身体を使って書く行為を楽しんだり、芸術表現として追究したりすることで、字と向き合うことの面白さを再発見しているようだ。

 単なる記号ではなく、一字一字に文化が潜む漢字。身近なその魅力に、時には思いをはせてみたい。

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