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新成長戦略―内需充実、外需発掘を

 掲げた目標を達成する道筋は険しいが、だからこそ全力で挑む必要も値打ちもあると言える。

 菅直人政権が発表した新成長戦略は、来年度にも日本経済をデフレから脱却させ、名目成長率を2020年度までの年平均で3%に引き上げるとの意欲的な目標を掲げた。ここ10年、名目成長がマイナスであることに照らせば目標数値はきわめて高いが、挑戦する意思と指導力を買いたい。

 菅首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」を実現するには、何より成長が不可欠である。

 首相が「消費税10%」の検討姿勢を示して並々ならぬ意欲を見せた財政改革にしても、社会保障の立て直しにしても、デフレやマイナス成長ではとてもかなわない。

 デフレが需要不足から起きている以上、投資や消費を増やすことが脱デフレと成長に大切だが、その中身を時代に合わせて見直さねばならない。

 モノをたくさん買うことによる「内需の拡大」でなく、医療や介護、観光など生活の質を高めるような「内需の充実」が求められよう。

 外需では、米欧の景気頼みで日本製品を売ってきた「輸出依存」を脱し、新興国や途上国のニーズに合わせたものづくりや、温暖化対策関連の市場開拓にも力を注ぐといった「外需発掘」の発想が必要だ。

 企業がそんな転換を進めるための舞台やルールづくりが政府の仕事だ。

 新成長戦略は環境・エネルギー、健康、アジア、観光立国など七つの戦略分野と21の重点プロジェクトを掲げた。どれもやるべき事業だ。

 ただ、潜在成長率を引き下げている構造要因である少子化・人口減少問題への取り組みが総花的すぎて、淡泊さが否めない。本気で迅速に取り組むことが必要だ。移民や定年年齢引き上げといった政治課題も避けて通れないテーマではないだろうか。

 女性の力をもっと社会に生かすことも経済成長に役立つ。その基盤づくりを進める上でも介護、保育ビジネスを短期間に大きく育てるといった、思い切った手を打てないものか。

 参院選への思惑から、避けているテーマもある。代表例が農業の市場開放だ。今年度から導入した農家への戸別所得補償制度は農業を下支えする。それをもとに米国や中国、韓国との自由貿易協定づくりに弾みをつけるのが、あるべき成長への道筋だが、これでは何とも説得力を欠く。

 昨年末に新成長戦略の基本方針づくりを国家戦略相として指揮した菅氏は、過去10年間に自民党政権下でできた10を超す成長戦略が失敗に終わった理由を「ビジョンと政治的なリーダーシップの不足」と語った。さて、菅さんはどうか。

口蹄疫抑止―政治の指導力にかかる

 「国家的な危機だ」

 家畜伝染病、口蹄疫(こうていえき)が猛威をふるう宮崎県に入った菅直人首相はそう述べた。その後、国会でも繰り返し強調している。

 確かに打撃を受けているのは地域社会だけではない。日本の畜産業にとっても未曽有の「激甚災害」と言っても過言ではない。首相には自身の認識通り、拡大を抑え込むために政府を引っぱってもらいたい。

 同県都農町で感染したとみられる牛が見つかったのは4月20日。感染拡大を抑える決め手のひとつは出足の速さだ。政府と宮崎県も封じ込めに全力をあげた。

 しかし、ついに約50キロ離れた都城市にも飛び火した。これまでの対策では不十分だったことは明らかだ。

 より効果的な対応には何が必要か。

 まず、行政の枠を超えた連携だ。国と都道府県、あるいは省庁の間の縦割りの壁は、しばしば効果的で迅速な対応を阻む。対応が遅れれば、被害の広がりはますます深刻になる。

 関係機関が、素早く密に連絡を取り合い、協調対応を進める体制を確立する。それは各役所に任せていては時間がかかるばかりだろう。政治が強いリーダーシップを発揮して決めていくことが求められる。

 いま現地が抱える最大の問題は、感染で殺処分対象となりながら、いまだ処分されていない家畜が約1万5千頭も残っていることだ。埋却地はすでに確保されている。まずはウイルスを拡散する恐れのある家畜の殺処分をできるかぎり急ぎたい。

 口蹄疫は世界各地で発生している。大規模に起こった英国などでは防疫体制が強化され、その後に効果をあげている。そうした最新の知見に学ぶことも大事だ。さまざまな専門家を投入し、知恵を結集してもらいたい。

 今流行しているウイルスは、遺伝子の解析から韓国や香港で流行しているものと非常に似ていることがわかっている。ウイルスが畜産物や人などについて運ばれてきた可能性がある。

 だとすれば、ほかの自治体にとってもひとごとではない。感染例が見つかったときに、多数の家畜をどう処分し、どこに埋却するのか。

 今回、早期の封じ込めに成功した宮崎県えびの市などの例に学び、事前に周到なシミュレーションをして備えなければならない。

 また発生地で、感染終息のめどがついたとしても、畜産農家の生活再建への不安は消えない。牛を買い入れ、肥育して出荷できるまでの約2年間は収入は全くない。そんなゼロからの生活再建ができるよう、政府はできるかぎりの支援、補償をするべきだ。

 この闘いには、日本の畜産業の将来がかかっている。

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