HTTP/1.1 200 OK Date: Tue, 15 Jun 2010 01:15:19 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:生きていれば七十二歳。静かに年輪を重ねた思慮深いまなざしの…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

筆洗

2010年6月15日

 生きていれば七十二歳。静かに年輪を重ねた思慮深いまなざしの女性の姿を想像する。ちょうど五十年前、安保闘争の国会突入デモで亡くなった東大生樺(かんば)美智子さんのことだ▼北原白秋、山本五十六ら著名人の墓が並ぶ東京の多磨霊園に、美智子さんの墓がある。入学前につくった詩が墓誌に刻まれている。<誰かが私を笑っている 向うでもこっちでも 私をあざ笑っている でもかまわないさ 私は自分の道を行く>▼当時、学生や労働組合員以外にも多くの市民が連日、国会周辺を埋め尽くした。日米安保条約の具体的な改定内容より、岸信介首相の強権的な政治手法への怒りが爆発したのだ▼岸首相は条約の自然承認後に辞任。やがて始まる高度成長時代の下、日本は戦後の平和と繁栄を享受した。基地を押し付けられた沖縄などを除けば、安保は「空気」のように日常に溶け込んでいる▼「米国に依存し続ける安全保障が五十年、百年続いていいとは思わない」。鳩山前首相が辞任の際に語ったのは正論だが、自らの言葉の軽さで腰をすえた議論もできないままに終わった▼美智子さんの詩はこう結ばれている。<ただ許されるものなら 最後に 人知れずほほえみたいものだ>。国会を囲んだデモは歴史になった。自動延長される安保条約の前で、思考を止めている私たちの姿に彼女がほほ笑むことはないだろう。

 

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