陸軍の戦闘機「隼(はやぶさ)」などの設計にかかわった糸川英夫博士は戦後、東大で超小型の火薬式ロケット(ペンシルロケット)の開発に尽力した。十二年前に発見された太陽系の小惑星イトカワは、日本の宇宙開発の父と呼ばれる糸川博士の名が由来だ▼大型タンカーより一回り大きい程度のイトカワまで約三億キロメートル。地球をソフトボールの球とすると、月は約三メートル離れた十円硬貨程度、イトカワは一・七キロメートルのところにある粉粒のような存在だという(週刊ダイヤモンド)▼イトカワへの往復七年の旅を終えた探査機「はやぶさ」がきのう夜、地球に戻ってきた。大気圏に突入して燃え尽きたが、採取した砂が入っている可能性のあるカプセルは分離、豪州の砂漠に落下した▼はやぶさの軌跡を記録した映像を先日、プラネタリウムで見た。エンジン故障や通信の途絶、燃料漏れなど数々の試練を不死鳥のように乗り越えていく姿に涙腺がゆるむ。はやぶさに感情移入し、応援したくなる気持ちがよく分かった▼ドラマを演出したのは、別々のエンジンをつなぐ回路を確保しておくなど、不測の事態に備え、周到な準備をしていた技術者たちだ。ペンシルロケットの時代からよくぞここまで、とたたえたい▼月より遠い天体に着陸した探査機が帰還したのは世界初の偉業だ。カプセルが空であっても、その価値は少しも揺るがない。