菅直人首相の所信表明演説は具体策なき現実主義だ。「理念先行」と指摘された鳩山由紀夫前首相の反省を踏まえ、現実路線に傾いたつもりなのだろうが、具体策を語らなければ、現実は動かない。
首相は演説冒頭、多くの国民の「長きにわたる閉塞(へいそく)状況を打ち破ってほしい」という思いが政権交代を実現させたと指摘した。この認識は正しいが、国民が、首相の口から聞きたいのは、閉塞状況を「どう打ち破るか」の具体策だ。
首相はその答えとして、公共事業などに頼らず、環境や医療、介護分野などに予算を重点配分して雇用と需要を創出する「第三の道」を挙げ、経済、財政、社会保障を一体として強くすると述べた。
「第三の道」で本当に経済、財政、社会保障を一体として強くできるのかはともかく、問題は財源をどう確保するのかだ。
首相は「まず無駄遣いの根絶を強力に進める。次に成長戦略を着実に推進する」と述べた。
無駄根絶を先行させる姿勢は当然だとしても、これまでの事業仕分けで財源を捻出(ねんしゅつ)できるのか、他の方法があるのか聞きたかった。
首相が「財政健全化検討会議」創設を呼び掛けたところをみると、消費税率引き上げを与野党で協議したいというのが本音だろう。
そこに消費税を選挙の争点から外そうという意図があるのなら見過ごせない。
「政治とカネ」に、ほとんど触れていないことも気になる。政治不信を招き、鳩山氏と小沢一郎前幹事長の辞任に至った大問題だ。
新内閣発足後、荒井聡国家戦略担当相の事務所費問題も浮上しており、この問題にどう取り組むか、首相として政治姿勢を示すべきではなかったか。鳩山、小沢両氏にも国民への説明を促すべきだ。
外交・安全保障政策では「現実主義」を掲げ、米軍普天間飛行場の返還問題は、今月二十三日に沖縄県で行われる全戦没者追悼式への出席から始めたいと述べた。
鳩山氏は就任後約八カ月間、沖縄県を訪れず、県民は不信感を抱いた。首相がまず沖縄を訪れることで、こじれた問題を解きほぐそうとする姿勢は歓迎する。
ただ現実主義が現状固定の言い訳になってはならない。
沖縄県民の基地負担を軽減するため、普天間飛行場の「国外・県外移設」など在沖縄米軍基地を抜本的に見直す、大胆で緻密(ちみつ)なビジョンを打ち出すべきだ。その構想力が現実を動かす力になる。
この記事を印刷する