HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 21007 Content-Type: text/html ETag: "1bd689-520f-74fe9f00" Cache-Control: max-age=3 Expires: Sun, 13 Jun 2010 02:21:04 GMT Date: Sun, 13 Jun 2010 02:21:01 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):社説
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民主政権公約―砂上の楼閣ではいけない

 民主党が昨年の総選挙でマニフェスト(政権公約)に掲げた「国民の生活が第一」の理念には、多くの国民が共感した。だが、その中身はとなると、財源見通しが甘すぎたために実現性が乏しくなっている。

 参院選では現実を踏まえて修正した政権公約をきちんと説明する。そのことこそ政権政党の使命だ。公約未達成への批判を恐れ、修正や説明を中途半端にしてはいけない。

 民主党は、一般会計に特別会計を合わせた国の総予算約200兆円から無駄づかいなどをなくせば、9兆円の財源を生み出せると想定していた。だが「事業仕分け」によって削減できたのは、今年度予算では7千億円にも満たない金額だった。

 無駄の削減や歳出の効率化は、これからも常に続けるべき重要課題だ。だからといってそれで財政危機が解消するかのような幻想は捨てなければならない。9兆円をひねり出すのが無理なことは、もはや明らかだ。

 そのような架空の前提に寄りかかったままでは、菅直人首相が就任以来、キャッチフレーズにしている「強い経済、強い財政、強い社会保障」は砂上の楼閣となってしまう。

 「強い財政」のためには当然、負担増が避けられない。その真実を国民に正直に話し、支持を訴えるしかなかろう。それが消費増税を軸とする税制の抜本改革に乗り出す際に欠かせない条件である。

 欧州ではギリシャなどの財政危機がユーロ危機へと広がり、世界経済の動揺が続く。財政への市場の見方は急速に厳しいものとなっている。日本も財政再建を急がねばならない。

 その意味でも、菅政権にとって発足早々に臨む参院選は国民との契約を結び直す好機とも言える。

 菅首相は所信表明演説で「税制の抜本改革」への着手を語り、超党派の「財政健全化検討会議」の設置を呼びかけた。「消費税は4年間は上げない」とした鳩山由紀夫前首相の封印を解き、責任ある財政運営に乗り出す意思表示として評価できる。参院選でも、その姿勢を貫いてほしい。

 子ども手当や農家の戸別所得補償、高速道路料金の無料化などの目玉公約は、裏付けとなる財源もないまま踏み込めば、予算編成も困難を極め、政権が行き詰まる原因にもなる。

 政策の優先順位に加え、個々の政策の中身も見直した方がいい。子ども手当の満額支給より、保育所整備などの現物給付を充実すれば、子育て支援や少子化対策として効果が大きい。

 これまでの反省を生かし、限られた財源を効果的に使う「出直しマニフェスト」を作り、改めて国民に信を問う。そこに民主党政権にとっての参院選の大きな意義がある。

原油流出事故―海底開発の国際的規則を

 メキシコ湾で起きた米国史上最大の原油流出事故は、発生から7週間が過ぎても流出を完全に止めるめどが立っていない。この事故は、新たな課題を人類に投げかけている。

 化石燃料の大量消費文明が、深海底での油田開発を後押ししてきた。巨額の開発費や事故による環境汚染という危険を勘案してもなお、海底油田に手を伸ばしていくべきなのか。それとも代替エネルギーへの投資や省エネにもっと力を注ぐべきなのか。

 立ち止まってよく考える機会ではないだろうか。

 ルイジアナ州沖のメキシコ湾に浮かぶ英国際石油資本(メジャー)BPの海底油田基地が爆発した。2日後に基地が沈没する際、送油管が折れ、水深1500メートルの海底から猛烈な原油の暴噴が始まった。

 周辺はイルカやウミガメなど海洋生物の宝庫であり、エビやカキなどの豊かな漁場でもある。そこを茶褐色の原油が脅かしている。

 BPはテキサスやアラスカでも事故を起こしており、今回も安全管理を怠ったのではないかとの批判が出ている。米連邦政府の監督当局が許認可を甘くしたとの疑惑も浮上した。本来は作動するはずの暴噴防止装置が働かなかったことなど、技術面でも深刻な問題を投げかけている。

 資源ナショナリズムのあおりで、陸上油田の大半は国有が占める。石油メジャーは独自の権益を求めてより沖合へ、より深海へと開発の領域を広げるようになった。3千メートルを超える深海底での掘削も増えている。

 採掘の技術進歩が背景にあるが、今回の事故で、環境破壊を最小限に抑える復旧技術は不十分であるという現実が露呈した。

 オバマ大統領は海底油田の開発許可を向こう半年間にわたり凍結し、再発防止策を作る方針を示した。当然の措置だが、対岸の火事ではない。世界各地の海底油田開発について、安全や環境への影響のチェック体制を再点検する必要がある。

 1989年にアラスカ沖で起きた巨大タンカーからの原油流出事故は、船体を二重にする規制強化や大規模汚染に対応する国際協力を進める条約作りにつながった。今回の事故も、深海での石油探査・掘削・生産が地球環境に深刻な打撃を及ぼさないようにするための国際ルール作りの契機としたい。暴噴した場合の緊急計画や必要な機材の準備を義務づける。復旧困難な深海では開発を制限することも真剣に考えるべきだ。

 石油の大量消費は地球温暖化の原因となり、海底油田開発には海洋汚染というリスクがある。どこまで開発を進めるか。温暖化や海洋の保全など、総合的な視点から判断する必要がある。

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