HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 21129 Content-Type: text/html ETag: "48430d-5289-9af24440" Cache-Control: max-age=4 Expires: Fri, 11 Jun 2010 00:21:05 GMT Date: Fri, 11 Jun 2010 00:21:01 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
国連安全保障理事会の決議を無視してイランが核開発を進める。脅威に感じた事実上の核保有国イスラエルがイランを空襲する。イランが反撃し、イラク、ペルシャ湾岸など中東全域が取り返しのつかない混乱に陥る。
決して現実にしてはならない最悪のシナリオだ。ではどうしたらいいか。安保理の結論はイランへの追加制裁だった。今回で4度目で、制裁対象の範囲を広げた。資産凍結リストに、核やミサイル開発への関与が疑われる「革命防衛隊」などが追加された。
イランが継続するウラン濃縮活動はもともと、国際原子力機関(IAEA)にきちんと申告せずに始めたものだ。安保理決議が停止を求めても、イランは応じてこなかった。
逆に、濃縮度を高める方針や濃縮施設増設計画を打ち出し、不信感をあおるような政策を次々と繰り出してきた。今回の決議採択の後、オバマ米大統領は「核拡散防止への国際社会の決意を示した」と語った。まったく同感であり、イランは決議採択を極めて重く、受け止めるべきである。
この決議を問題決着にどう生かしていくか。国際社会の決意を示したのはいいが、イランが反発して事態が悪化するばかりでは展望が開けない。制裁による圧力と、外交による対話の組み合わせが、これまで以上に問われる。
引き続き着目したいのが、トルコ、ブラジルの仲介でイランが5月に合意した妥協案だ。イランは、保有する濃縮度3.5%の低濃縮ウラン、1.2トンをトルコへ搬出する。代わりに、医療目的の研究炉用に20%まで濃縮・加工された核燃料棒120キロを受けとる、というものだ。
今回の決議採択では、安保理非常任理事国であるトルコ、ブラジルが反対に回った。すぐに結実しないまでも、妥協案を無にはできないとの思いからだろう。米欧諸国にはこの案に懐疑的な見方が根強い。最大の懸念は、妥協案にウラン濃縮活動の停止が含まれていないことだが、低濃縮ウランを国外に搬出すれば、イランが核保有できる時期を先に延ばす効果はある。
この妥協案が実現してもイランの核疑惑が解消されるわけではないが、危機の進行を止め、外交決着に駒を進める一手となりうるだろう。
ガザ支援船へのイスラエルの軍事作戦で、米国はイスラエルを批判しなかったが、もしイスラエルによるイラン攻撃となれば、窮地に立たされる。オバマ政権にとって、悪循環を断つ外交をどう進めるかが大きな課題だ。
イスラム世界に位置し、北大西洋条約機構の一員でもあるトルコにイランへの説得を強めてもらい、米欧などとの接点をさぐっていく。そんな多角的な外交を同時並行させてこそ、突破口を見いだせるのではないだろうか。
サッカーのワールドカップ(W杯)がきょう、幕を開ける。世界が熱狂する、1カ月に及ぶ戦いの始まりだ。
舞台は南アフリカ。W杯がアフリカ大陸で開催されるのは史上初である。
単なるスポーツの祭典ではない。世界中のメディアが、各チームの活躍だけでなく、開催地や参加国についても集中的におびただしい情報を発信する。それまで知られることの少なかった国や地域について様々な新しいイメージが形成されていく。いわば各国のソフトパワー競演の場でもある。
その意味で、南アでのW杯開催の意義は大きい。
サッカーはこの国の現代史と縁が深い。アパルトヘイト(人種隔離)政策下の時代、ケープタウンの沖合にあるロベン島刑務所で、政治囚らが自分たちのサッカーリーグを立ち上げた。看守から絶え間ない暴力を受けながらも、囚人たちは刑務所側と数年がかりで交渉し実現にこぎ着けた。ズマ大統領は主将の一人だった。
彼らにとって、サッカーは過酷な日々を尊厳を持って生き抜くための支えでもあったという。そんな中には後に国防相やスポーツ相など国の要職に就いた人たちも多い。今回のW杯運営に携わる人もいる。
島の隔離棟にいて試合に参加できなかったマンデラ元大統領も、このリーグ戦の勝敗に関心を持ったり、ラジオでW杯の実況を聴いたりしたという。
そのマンデラ氏は「南アはアフリカのホスト国として開催の名誉を受けた」と、W杯を大陸全体の大会として位置づける。
アフリカは今、変わりつつある。まだ各地に紛争や貧困といった問題が根深く残る。破綻(はたん)国家の様相を呈している国々もある。しかしその一方で、民主化と市場経済化が進んでいる。
今年は折しも、出場国のカメルーンやナイジェリア、コートジボワールをはじめとする17カ国が1960年に植民地支配から独立した「アフリカの年」から半世紀の節目でもある。
激しい貧富の格差や治安の悪さを抱えながら、有力国の集まりであるG20にアフリカから唯一加わっている南アは確かに、苦闘しながら変容を遂げようとするアフリカを代表する国だ。
大会では、南アとアフリカ各国に存分にソフトパワーを発揮してもらいたい。そこに世界のまなざしが集まり、アフリカの国々が高揚感を共有すれば、変革を促す活力にもなるだろう。
今大会の優勝候補はスペインや6度目の優勝を狙うブラジルなどだ。日本代表の健闘を祈りつつ、アルゼンチンのメッシ、ポルトガルのロナルドをはじめとする世界最高峰の選手たちの技も楽しみたい。
来月11日の決勝まで、スポーツの持つ力を堪能したい。