HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Thu, 10 Jun 2010 02:13:45 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:米原油流出 海からの警告なのか:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

米原油流出 海からの警告なのか

2010年6月10日

 米メキシコ湾の原油流出は、発生から一カ月半を過ぎても衰えず、史上最大の環境汚染といわれ始めた。われわれは、海を蝕(むしば)む油の染みさえ容易に止められない。消し去る力も持っていない。

 どうして早く止められないのと、多くの人が思うだろう。だが、原油の激しい流出は、今この瞬間も続いている。これが現実だ。後手後手に回る対応策は「オバマ政権のカトリーナ」とも呼ばれ、秋の中間選挙への影響すら懸念されている。

 米国南部ルイジアナ州のメキシコ湾沖合約八十キロ。英国の国際資本、BPの石油掘削施設が爆発、沈没し、約千五百メートルの深海底から地中に延びる深さ五千五百メートルの掘削パイプが折れた。史上最深の油井を採掘したとして、注目を浴びたばかりの施設である。

 一日最大三千キロリットルが噴き出していて、総流出量は、一九八九年にアラスカ沖で座礁したタンカー「エクソン・バルディズ号」から流れ出た、当時最悪の約四万キロリットルをすでに大きく上回る。

 流出原油の帯は日に日に伸び、米国屈指のエビ漁場である海や、鳥が憩う水辺の生態系、そして漁民の暮らしにも深刻な影響を及ぼしている。日本の需要を支える大西洋クロマグロの産卵海域にも打撃を与える恐れがある。

 当初は早期沈静化の楽観論があった。しかし、人類は宇宙以上に海の中を知らないとすらいわれている。深海では、人も機械も思うようには動けない。油井に泥を流し込む作戦や、ロボットを使った封じ込めなど、最先端技術の挑戦も次々退けられた。

 われわれは、流出した原油を消し去る魔法を持っていない。回収技術は、二十年前からほとんど進んでいない。バルディズ号から出た原油の一部は未回収のまま今も生態系を汚しているという。

 BP側の責任を問うだけだった米国政府は五月末になってようやく、対策の先頭に立つ姿勢に切り替えた。

 初動の遅れが残念だ。豊かな海にじわじわと広がる赤黒い油の染みは、あらためて警告を発しているようにも見える。

 第一に、海の中には人間や科学の力がまだ遠く及ばない。第二にはそうでなくても、技術を過信するのは危険である。第三に、生態系は傷つきやすく、汚染に遭うと元に戻すのが難しい。そして、海に囲まれ、海の恩恵を受けているわれわれも、遠い米国の環境汚染に、無関心ではいられない。

 

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