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6月8日付 編集手帳

 〈星と月以外、何物をも持たぬ沙漠(さばく)の夜…〉は、井上靖の詩『漆胡樽(しっこそん)』の書き出しである。井上文学に現れる「さばく」はほとんどが「沙漠」であって、「砂漠」ではない。「砂漠」よりも感じとして粒子の細かい「沙漠」の手触りを作家は愛したか◆〈(うた)のほうが歌よりも軽く小さく、どこか投げやりで、その分(かな)しい〉。著書『マイ・ラスト・ソング』(文芸春秋)で「歌」と「唄」の手触りを語ったのは作家の久世光彦さんである◆日本語のもつ豊かさも、ひとつには、この微妙で陰翳(いんえい)に富んだ“手触り”にあるのだろう◆文化審議会が「(おれ)」や「(うつ)」など196文字を常用漢字表に追加するよう、文部科学相に答申した。「沙」や「唄」も晴れて常用漢字の仲間入りをする。とはいえ、〈(くし)といふ字を蒲焼(かばやき)無筆(むひつ)よみ〉と江戸川柳にあるように、読めないと昔は笑われた「串」の字がようやく追加されることを思えば、常用漢字の門戸開放は遅々たる歩みだろう◆「(おか)」「(くま)」「(さか)」などが今回追加され、すべての都道府県名が常用漢字で書けるようになるそうな。常用漢字とは摩訶(まか)不思議な区分けではある。

2010年6月8日01時14分  読売新聞)
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