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天声人語

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2010年6月8日(火)付

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 「記録に残る」と「記憶に残る」は、似て非なるところがある。記録に残らなかったために長く記憶されるだろうニュースが、先ごろ米大リーグから届いた。「世紀の誤審」で幻と消えた完全試合の話には、一服の清涼剤の趣もある▼完全試合とは、打者を一人も塁に出さずに勝つことをいう。投手の大勲章で、大リーグ史上でも20回しか記録がない。タイガースのガララーガ投手は9回2死まで走者を許さず、あと一人に迫っていた▼「最後の打者」は内野ゴロを打つ。誰もがアウトを確信したが、まさかの「セーフ」に偉業は消えた。録画を見ると明らかな誤審である。審判は非難の集中砲火を浴びた。だがガ投手は彼をかばった。「完全な人間はいない」という言葉がいい▼次の日、球場でさめざめと泣く審判の肩を抱いて、握手を交わしたそうだ。「審判も間違える」ことを前提にゲームが成り立っているのを、よく分かっているのだろう。ずいぶんと男を上げたのではないか▼元横綱の大鵬を思い出す。連勝が45で止まった一番は、やはり「世紀の誤審」と言われる。だが大鵬いわく「物言いのつくような相撲をとった横綱が悪い」。時は流れたが、記憶にとどめる方もおられよう▼さらに古いが、ローマ五輪体操の池田敬子さんの弁も印象深い。抜群の演技だったが得点は低く、会場が騒然となるほどだった。悔しさを封じ、「お尻がもう少し上についていたらね」とさらりと語った。鍛え抜いた身体に人となりが輝きを添える。古今変わらぬスポーツの美しさであろう。

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