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菅直人新首相を支える新しい民主党執行部が発足した。
夏の参院選で菅氏とともに党の顔となる幹事長には、小沢一郎前幹事長から一貫して距離を置いてきた枝野幸男・行政刷新相を起用した。全体として「脱小沢」の色彩が濃い布陣だ。
政権交代で「新しい政治」を期待した世論が鳩山政権から離れていった大きな理由のひとつが、小沢氏が体現した「古い政治」の体質だった。
自民党時代と変わらぬ政治資金疑惑、露骨な利益誘導を伴う選挙戦術、異論を許さぬ強権的な党運営。その積み重ねが有権者をひどく幻滅させた。
菅氏がまず人事で「古い政治」との決別を前面に出したのは正しい。
鳩山政権の機能不全を反面教師に、菅政権が統治能力と政策実現能力を発揮できるか、その鍵を握るのが新しい「政策決定一元化」の態勢である。
菅氏は小沢氏が廃止した政策調査会を復活し、そのトップに玄葉光一郎・衆院財務金融委員長を据えた。公務員制度改革、「新しい公共」担当相を兼務させて入閣させる方針だ。
玄葉氏は早くから政調復活を唱え、参院選のマニフェストづくりにもかかわってきた。財源不足で実現が難しいことが明白になった昨年の衆院選マニフェストを、どう実行可能なものに修正するのか。党と政府の議論をつなぐ玄葉氏の責任は重い。
本来、閣内の政策調整を担う官房長官や国家戦略相と、政調会長兼担当相との役割分担を、あらかじめ明確にしておくことも必須だ。
菅内閣はきょう正式に発足し、会期末まで残り1週間の終盤国会に臨む。与党内では、2週間程度の会期延長が有力視されている。
確かに会期の延長は必要だ。しかしそれは、郵政民営化の方向性を抜本的に見直す重要法案を、参院選対策になるからといって駆け込みで成立させるためであってはならない。
問題の多い法案はこの際、廃案にして仕切り直す。そのうえで民主党政権の看板である「政治主導」体制の確立を進めるため、国家戦略室を局に格上げしたり、政務三役として政府に入る国会議員の数を増やしたりする法案に絞って成立させる。それが、まずこなすべき新政権の仕事ではないか。
何より求めたいのは、菅新政権が何を本当に目指すのか、鳩山政権の失敗をどう総括し、どう改めるのか、参院選を前に判断材料を有権者に示すことだ。それには国会論戦、特に党首討論や予算委員会での議論が欠かせない。
代表就任後の菅氏は発言の慎重さが目立つ。前任者が言葉の軽さで信頼を失ったことを思えば、安全運転したい気持ちはわかる。しかし、菅氏の持ち味は「攻め」だ。論客は論戦を受けて立ってこそ、である。
世界経済に暗雲が広がる中、優先させるべきは景気回復か、財政再建か。簡単には答えが出ない難問である。
韓国・釜山に集まった20カ国・地域(G20)の財務相や中央銀行総裁たちも頭を悩ませたのだろう。共同声明は二兎(にと)を追う書き方になった。持続可能な財政の重要性を強調しつつ、経済成長にも配慮する姿勢だ。
ギリシャとユーロの危機で欧州連合(EU)などが採った措置については歓迎し、深刻な財政問題を抱える国に対して「健全化のペースを加速させる必要がある」とした。
世界経済のリスクは、金融危機から財政危機に焦点が移りつつある。
それには必然性がある。金融危機によって世界は同時不況に陥った。各国が協調して財政出動に踏み切り、景気を上向かせたが、財政は悪化の一途だ。赤字が深刻な国の国債を抱える銀行などの経営不安から、再び金融危機が起きかねない。
欧州も米国も日本も、財政の悪化がひどい。景気回復の芽を摘むような大幅な増税には踏み切れないが、市場の信認を得て成長を軌道に乗せるためにも、中期的な財政再建の道筋を示すことが喫緊の課題になった。
世界的な金融危機とそれに続く財政危機。この歴史的経験から学ぶべきもうひとつの教訓は、極端なバブルを繰り返さないよう知恵を絞ることだ。
つい先ごろまで、経済学者の間では、中央銀行の金融政策はバブル生成を防げず、バブル崩壊後にすばやく金融緩和するなどして処理をすればよい、という考えが主流だった。しかし、それは次々とバブルを生み出す結果につながってきた。
米国のITバブル、住宅バブル崩壊に続き、欧州でも一部の国の住宅バブル崩壊が経済への打撃となった。新興国のバブルも懸念されている。バブルが崩壊すると、財政出動も切り札にはならず、悪影響は長引く。主流派の考えに疑問符がつくのは当然だ。
金融・財政政策は、その国の状況に応じて行うのが基本である。しかし、規模の大きな国や地域が低金利を長く維持すると、国際的な資本移動を通じて他国のバブルを生み、結局は、自国もしっぺ返しを受ける。
金融政策だけではバブルを防ぐことが難しいが、各国の規制や監督も組みあわせ、バブルを小さくしなければならない。だから金融政策や監督体制は、世界的な視点と協調が重要だ。
そのためにもG20などの会議の場で、財務相や中央銀行総裁たちが率直に意見を交わし、認識を共有する努力が欠かせない。
日本にはこの点、大きな疑問符がつく。1年間で首相が3人目、財務相が4人目。異常さを今度こそ克服しなくては、世界の信頼を失う。