HTTP/1.1 200 OK Date: Thu, 03 Jun 2010 20:15:22 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:国民が置き去りだ 鳩山首相の退陣表明:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

国民が置き去りだ 鳩山首相の退陣表明

2010年6月3日

 鳩山由紀夫首相が退陣表明した。「普天間」や「政治とカネ」で信頼を失った首相には当然の帰結だが、自ら批判してきた「政権たらい回し」にほかならぬ。

 歴史的な政権交代の「顔」として国民の期待を背負ってきた鳩山首相。自ら退陣表明の場に選んだ緊急の民主党両院議員総会で「私自身、この職を引かせていただくことになります」と語った。

 任期途中、それも参院選を目前にした国会終盤に政権を投げ出さざるを得なかったのは、「鳩山首相では参院選を乗り切れない」とする、党内改選議員の声に抗しきれなかったためだ。

◆信を問うのが筋だ

 そこに働いているのは、党の顔でもある首相を代えれば、劣勢とされる参院選の状況を多少なりとも好転できるという「党利党略」であることは容易に想像がつく。

 資質を欠き、国民の信頼を失った鳩山首相の退陣はやむを得ないにしても、一年ごとに首相が交代するのは内政上も外交上も好ましくない。自民党政権末期のそうした状況を「政権のたらい回し」と批判したのは民主党自身だ。

 昨年の衆院選で、国民が選挙を通じて新首相を選んだのは、政党内の力学や密室で首相が決まる旧態依然の政治との決別を民主党に託したからではないか。

 政権の中間評価を問う参院選の結果、有権者が現政権に「ノー」を突き付けたことが明らかになれば、首相退陣という判断もあろう。民主党が自民党と同様、選挙目当てで首相の首をすげ替えるのは理解しがたい。

 首相交代後、速やかに衆院を解散し、総選挙で新政権に対する国民の信を問うのが筋である。

 それができないのなら、新首相は、鳩山内閣が進めてきた政策の何を引き継ぎ、何を引き継がないのかを明示し、参院選で国民に賛否を仰ぐことが欠かせない。

◆政策競う代表選に

 特に、首相退陣のきっかけとなった米軍普天間飛行場の「県内移設」方針や「政治とカネ」の問題は参院選の最大争点になる。

 後継代表を選ぶ民主党代表選は本来、党員・サポーターも交えて時間をかけて行うべきだが、急きょ四日に設定された代表選では、せめて複数候補がこれらの問題を論じ合い、国民に政策や政治姿勢を明らかにする必要がある。

 振り返れば、多くの国民は、政治主導の政策決定、予算の「コンクリートから人」への配分、行政の無駄排除、緊密で対等な日米関係など、民主党の政策実現に大きな期待を抱いたに違いない。

 その「政権交代の果実」はどれだけ得られたのであろう。新政権発足後八カ月余りで判断するのは性急かもしれないが、甘めに評価しても、成果は期待していたほどではなかったのではないか。

 すべてが鳩山首相の責任とは言えないが、その多くは指導者の資質に起因しているのだろう。

 発言に責任を負わない言葉の軽さ、内閣を率いる指導力や政策を実現させる実行力の欠如は否定のしようがない。最初から期待しなかったのなら諦(あきら)めもつくが、期待が大きかった分、落胆も大きい。

 首相は両院議員総会で、退陣理由に普天間問題で「社民党を連立離脱に追い込んでしまった」こと、自身の「政治とカネ」の問題で「議員の皆さんに大変な迷惑をかけた」ことを挙げた。

 社民党を連立離脱に追い込んだのは、普天間問題での首相の「最低でも県外移設」という食言だ。「職を賭す」覚悟があるのならなぜオバマ米大統領に国外・県外移設を直談判しなかったのか。

 社民党の福島瑞穂党首を「県内移設反対」を理由に閣僚罷免するのは筋違いであり、それを契機に鳩山退陣論が沸き上がったのは無理もない。

 首相は「政治とカネ」で、小沢一郎幹事長にも辞任を求めたことを明らかにした。小沢氏が幹事長を辞任すれば「クリーンな民主党」に生まれ変わると言いたいようだが、そう考えるのは早計だ。

 小沢氏は資金管理団体をめぐる不透明な土地取引について引き続き説明責任を負う。幹事長辞任で免責されるわけではない。

 加えて、小沢氏が辞任後も引き続き党内に隠然たる影響力を持ち、権力の二重構造が続くようなら、民主党再生への道は遠い。

◆新しい政治育もう

 昨年の衆院選で有権者が日本近代政治史上初めて、選挙で首相を交代させた歴史的意義は大きい。

 政権交代という「壮大な実験」が成功に終わるのか失敗に終わるのかは、鳩山首相の辞任だけで判断するのは早いように思われる。

 政権交代が当然に起きる時代には、新しい政治の流れを粘り強く育(はぐく)む余裕も、有権者には求められているに違いない。

 落胆せず、決して楽観もせず。「鳩山後」にも目を凝らしたい。

 

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