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鳩山由紀夫首相の退陣表明を受け、民主党代表選がきょう行われ、新代表が直ちに国会で次の首相に指名される。あまりにも短期決戦である。
歴史的な政権交代をうまく生かせなかった鳩山政権の経験をどう総括し、次の前進につなげるか。各候補が有権者とともに論議を深める時間がほとんどないのは、残念というしかない。
代表選には、菅直人副総理・財務相と、樽床伸二衆院環境委員長が名乗りを上げている。
だれがポスト鳩山に決まろうとも、「民主党は変わった」と有権者に受けとめられるような代表選にしなければ、首相と小沢一郎幹事長の「ダブル辞任」が報われない。
菅氏はきのう、改革を進めるためにも「小沢幹事長にはしばらく静かにしていただいた方がいい」と語り、樽床氏は「世代交代」を強調した。それぞれが描く民主党政権の「変化」の姿が、党所属国会議員の審判を受ける。
新政権に何よりも求められるのは、日本の針路や私たちの暮らしにかかわる課題を的確に把握し、解決策を速やかに立案し、それを着実に実行していく力量である。この「統治能力」が、鳩山政権には決定的に欠けていた。
米軍普天間飛行場の移設問題での混迷を見れば明らかだろう。
鳩山首相の軽い言葉に、各閣僚のばらばらな発言。官僚の能力をうまく使えない未熟な「政治主導」。政策決定の一元化の名のもとに、内閣と党が互いに不干渉を決め込み、意思疎通と連携を欠いたことも迷走を深めた。
新首相が失敗を繰り返さないために一番必要なのは、政治主導が円滑に実質的に機能する体制の再構築である。
具体的には、新首相が自らを支えるチームをつくることであり、内閣や党執行部の人事を思い切って断行することである。時間がないからといって、鳩山・小沢体制の閣僚や党幹部をほぼ「居抜き」で引き継ぐようでは、民主党が変わったとは見えない。
鳩山政権では小沢幹事長の影響力が大きく、「権力の二重構造」との批判や不満が渦巻いていた。これでは政策決定の一元化はおぼつかない。首相や閣僚、党役員が常に「闇将軍」の顔色をうかがいながら政治を進めるような仕組みは一掃されなければならない。
新首相の理念や政策に深く共鳴し、一体となって行動できる「チーム」をつくることから、政権の統治能力回復をはかっていくべきである。
官僚の活用も大切だ。自民党政権時代、官僚は政策決定や調整といった政治の領分にまで手を出していた。それを見直すのは良いが、鳩山政権は官僚を遠ざけすぎた。政官の役割を整理しつつ、官僚の力を生かす必要がある。
失敗からどれだけ学べるか。大切なのは、そこである。
またしても、イスラエル軍の強硬な軍事行動が悲劇を生んだ。
イスラエルによる封鎖で人道的な危機が続くパレスチナ自治区ガザ。そこに向けて医薬品をはじめとする援助物資を運んでいた国際船団を公海上で拿捕(だほ)しようとして発砲した。人権活動家ら9人が死亡し、多数が負傷した。
イスラエルのネタニヤフ首相は、防衛のための行動だったと主張する。だが一方は完全武装の部隊であり、他方はトルコや欧州などの民間人である。首相の説明には納得できない。
国連安全保障理事会が緊急会合を開き、「イスラエル軍の武力行使で人命が失われたことを遺憾」とする議長声明を出したのも当然だ。
アラブ・イスラム諸国やトルコでイスラエル非難の行動が広がっている。米国はイスラエルへの影響力を生かして、迅速に事態打開に動く必要がある。さもなければ、米国の仲介するイスラエルとパレスチナの間接交渉も台無しになるだろう。
トルコは伝統的にイスラエルと友好関係を持ってきた。シリアやイランとイスラエルや米欧をつなぐ役割も果たしてきており、事態の悪化を放置すれば、中東安定化の試みにも打撃だ。
議長声明は2007年から続く封鎖による「ガザの人道的状況に重大な懸念」を表明した。
封鎖は国際法が禁じる集団的懲罰に当たるとの批判が強い。占領地に必要な物資やサービスを提供する義務を無視しているというものだ。08年末から3週間続いたイスラエルのガザ攻撃では多くの民間人を含む1400人以上のパレスチナ人が死亡した。そしてこんどの事件である。
中東の暴力と流血の連鎖を断ち切るには、圧倒的な軍事力を持つイスラエルが国際的なルールを守ることが不可欠だ。それを迫ることは安保理の役割だ。その第一歩として、事件の真相究明に動いてもらいたい。
米国の同盟国にも動きが広がっている。キャメロン英首相はイスラエル軍の行動を「まったく受け入れられない」と表明。ラッド豪首相はネタニヤフ首相に電話し、独立機関による事件の真相調査を要請した。
日本政府は「犠牲者が生じたことは遺憾」とする外務報道官の談話を出した。米国の立場を配慮したためか、安保理議長声明よりも抑えた内容だ。
輸入原油の約9割を中東に依存する日本。パレスチナ和平の展望が開けなければ核不拡散も危うくなり、核廃絶をめざす政策も行き詰まりかねない。日本が続けてきたパレスチナへの支援も現状ではうまく生かせない。
政府は中東和平を脅かすひとつひとつの問題にもっと敏感に反応し、行動してほしい。それも日本外交のきわめて大切な領域だ。