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政治や社会への発言も多かった文学者の中野好夫に「悪人礼賛」という随想がある。「由来ぼくの最も嫌いなものは、善意と純情の二つにつきる」と、冒頭から刺激的だ▼「彼らはただその動機が善意であるというだけの理由で、一切の責任は解除されるものとでも考えているらしい」「(詰問すると)切々、咄々(とつとつ)としてその善意を語り、純情を披瀝(ひれき)する」。さらに、五十歳を超えてもその純情を売り物にしている不思議な人物もいる、と続く。古い一文ながら、だれかを思い起こさせる▼動機の善悪で結果が斟酌(しんしゃく)されないのが政治だろう。「よかれと思って」では収まらない。それを知らぬ鳩山首相でもあるまいに、どこか「甘え」が抜けきらない。普天間問題の独り相撲で、「不思議な人物」は土俵ぎわに追い込まれた▼社民党は政権を離脱した。福島大臣は罷免され、辻元副大臣も辞任した。ともに行政を率いて志半ばである。筋を通した2人が思い余って泣く姿は、図らずも鳩山さんの「変節」を際立たせた。人は大抵、理のある側に肩入れをする▼「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」はハードボイルド小説の名せりふだ。政治家にも当てはまるものがあろう。だがタフと鈍感は違うし、優しさが優柔不断の裏返しでは困る。首相についた疑問符は小さくない▼退陣要求は民主党内から公然と出ている。政治手法が自民に似てきた民主だが、短期の首相退陣まで焼き直しになるのか。どちらに転んでも、政治の貧困は国民にへばりつく。